今注目の国会参考人質疑―児玉龍彦東京大学アイソトープ総合センター長、沢田昭二名古屋大学名誉教授などの衆議院厚生労働委員会参考人質疑の議事録を掲載させていただきます。
第177国会 衆議院 厚生労働委員会 2011年07月27日(水曜日)
本日の会議に付した案件
厚生労働関係の基本施策に関する件(放射線の健康への影響)
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○牧委員長 これより会議を開きます。
厚生労働関係の基本施策に関する件、特に放射線の健康への影響について調査を進めます。
本日は、本件調査のため、参考人として、独立行政法人放射線医学総合研究所理事、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会委員明石真言君、日本学術会議副会長・東京大学名誉教授唐木英明君、長崎大学名誉教授長瀧重信君、名古屋大学名誉教授沢田昭二君、東京大学先端科学技術研究センター教授・東京大学アイソトープ総合センター長児玉龍彦君、京都大学原子炉実験所助教今中哲二君、以上六名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多用中にもかかわらず本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
次に、議事の順序について申し上げます。
最初に、参考人の方々から御意見をそれぞれ十五分以内でお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
なお、発言する際は委員長の許可を受けることになっております。また、参考人は委員に対して質疑することができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
それでは、まず明石参考人にお願いいたします。
○明石参考人 おはようございます。放射線医学総合研究所の明石と申します。
まず一番初めに、今回の東日本大震災により被災された多くの方々に心よりお見舞いを申し上げると同時に、今回は、地震、津波、それから原子力という非常に大きな災害が加わった複合災害という未曾有の出来事でございました。住民の方々には身体的また精神的、特に地域におかれましては社会的、経済的な大きな負担を強いられており、このような困難な状況からできるだけ早く脱却できる努力を我々もするべきでありますし、住民の方々も心からそのようなことを望んでいるというふうに私どもは思っております。
まず、私どもの研究所について簡単に御紹介させていただきます。
私どもの研究所、放射線医学総合研究所、我々は放医研という呼び方をしておりますが、放射線・原子力事故時の医療である緊急被曝医療という医療の中心的機関ということが定められております。一九九九年に茨城県の東海村で起きたジェー・シー・オー臨界事故の際には、三名の高線量被曝の患者の方々を受け入れて、線量評価、それから治療方針の決定と治療、また、そればかりではなく、住民の線量評価、それから、現在でも行われております住民の健康診断にも従事をさせていただいております。
このほかにも、私どもの研究所は、国内で起きた事故について多くの対応した経験を持っておりますと同時に、国際原子力機関、IAEAに依頼されて外国の事故にも専門家を送るなど、多くの事故に対応した経験がございます。
今回の福島における原子力発電所の事故は、幸いにしてこれまでに治療が必要な方、放射線被曝による治療、それから放射性物質による汚染による治療というものが必要な場合という方はまだ出ておりませんが、今回の事故はジェー・シー・オーの臨界事故に比べまして規模はかなり大きく、それから放射性物質による汚染の地域もかなり拡大をしたものというふうに私どもは考えております。
今回の事故と違いまして東海村の事故の際は、汚染がなく、住民の健康影響についても、確定的影響、つまり閾値がある、これ以上の線量を超えると症状が出るというような閾値が考えられる確定的影響が出るレベルではございませんでしたし、確率的影響、がん等に閾値がないと考えております確率的影響も小さくて検出できない事故という程度でした。しかしながら、その当時も住民の不安というものは非常に大きく、健康影響に関する説明会等を何度も行ってまいりました。
問題は、当時、放射線の影響に関する教育というものが義務教育でほとんど行われていなかった、それから大学医学部等でも、医師等に放射線の影響、放射線の障害ということに関する教育等も十分に行われていませんで、当時、放射線の教育というのは非常に重要だということが認識をされておりました。
今回の福島の原子力発電所の事故におきましても、先ほど述べましたように住民の健康影響というのは非常に大きく、特にマスコミ、それから多くの専門家の先生から出される情報のために、住民は一体何を信じていいのかわからなくなっているというのが現状でございます。
もっと言いますと、放射線について何が危なくて何が危なくないのかということをやはり住民に正しく理解をしていただく、そういう機会をふやすことというのは非常に重要でもありますし、我々専門機関としての役割というふうに考えております。
最近、特に牛肉の汚染が問題になっておりますが、マスコミは、汚染が出たとか、一キログラム当たり何ベクレルぐらいのセシウムが入っているというような報道をされます。当然のことながら、汚染がある食べ物を売るとか食べるとかいうことは決していいことではありませんし、そんなことはするべきことではありません。しかしながら、もしマスコミがもう少しこの問題を一歩踏み込んで、この牛肉を二百五十グラム食べると何マイクロシーベルトぐらいになるんだとかいうようなことを同時に報道していただくと、危険の度合いというものが住民の方々にとってよりわかりやすくなるというふうに私どもは考えております。
特に、放射性物質による体内被曝というのは考え方が多少複雑でありまして、住民の方々にも非常にわかりにくいというのが現状であります。体内被曝の線量を考える場合、私どもは、実効線量係数といいまして、つまり、一グラム、一キログラムに含まれている放射性物質の量から計算して、一ベクレルの放射性物質を食べると何マイクロシーベルト、何ミリシーベルトぐらいになるのかということを計算する数値というのを持っており、これを使って体内の線量評価をしているわけでございます。
例えばセシウム137の場合は、十万ベクレルぐらいを食べますと約一・四ミリシーベルトぐらいになるとか、例えばこの半分であるとか、こういうような数字をやはりわかりやすく住民の方々に理解していただくということが、何が危なくて何が安全なのかというのを判断する材料になるのではないかというふうに思っております。我々専門機関も、こういうきめ細かな情報を出すことが求められていることは言うまでもございません。
それから、もう一つ重要なことは、法令による規制値というものと健康影響が出るレベルというのはかなり違うということでございます。規制値を超えるということは決して許されることではございません。しかしながら、規制値は健康影響が出るレベルよりもかなり低いところに設定をしてございますので、こういうことをやはり住民の方々にもわかりやすく理解していただくということも非常に重要なことであるというふうに私どもは考えております。
私どもの研究所は、非常に早い時期から職員を現地に派遣する、地震が起きてから十七時間後には医療チームを現地に派遣しております。それで、住民の線量評価の必要性、つまり、においも味もない、被曝したかどうかわからないという放射線被曝について、早く科学的な評価を行い、線量評価をする、それが住民にとって一番の安心になるということを提唱してまいりました。
特に最近では、汚染レベルが高い地域での体内汚染、住民の方にどれぐらい体内汚染があるのかということを、体の外から放射性物質、放射線を検出するホール・ボディー・カウンターというのを用いまして、それと同時に、体内の、尿中に出てくる放射性物質のレベルを測定いたしました。
御存じのように、このホール・ボディー・カウンターというのは、体の中に存在する放射性物質をはかるものでございますが、測定した当日に体の中にどれぐらい放射性物質があるのかということしか実は測定できません。そこからどれぐらいの線量になるのかということについては、例えば、吸入したのか、食べたのか、それから、それが三月の十二日なのか、それとも三月の末なのか、いわゆる吸入経路それから摂取時期について推定をいたしまして、それに基づいて計算をするという、多少複雑な過程を経ております。
ホール・ボディー・カウンターでわかることは、先ほどもお話ししましたように、はかった当日体の中に残っている放射性物質ということであって、やはり限界もございます。ただ、言えることもございます。やはりそこを住民の方々に理解していただくような我々の努力も非常に重要だというふうに考えております。
幸いにして、今回、私どもの研究所で行わせていただきました住民の体内被曝に関して今まで出た結果では、住民に健康影響が出るような線量にはなっていなかった。これは私ども、非常にいいことだ、うれしいことだというふうに考えております。
ただ、一方では、体の中に入っている放射性物質というのはどんどん減っていきますので、より早い時期、もう少し事故から早い時期にこういう線量評価を行って、住民の方々にどれぐらいの被曝線量であるかということを正確にお伝えすることができたら、より住民の不安は小さくなったのではないかということを、私ども多少悔やんでおります。
また、我々の体の中には、自然界からの放射性物質、例えばカリウム40というものが、日本人でいいますと、六十キロから七十キログラムの方ですと大体四千ベクレルぐらいのカリウム40という放射性物質がございます。また、これは我々が生きていく上でもう仕方がない自然界の放射性物質でありますが、こういうものも体の中にあって、これからも放射線を受けているという、ある程度比較の目安になるようなこともやはり住民に理解をしていただくというのも必要ではないかというふうに思っております。
特に、先ほどもお話し申し上げましたように、目に見えない、それからにおいもない、味もない放射性物質についてというのは、やはり住民の方々が御自身で判断できる材料を早い時期に与えるということが私どもにとって重要であると思っておりますし、何が危なくて何が危なくないのかということを御自分で判断していただくというのが一番重要なことというふうに考えております。
放射線につきましては、現代の社会で欠くことができません。もちろん、病院、工場、それから煙感知器等、いろいろなところで使われております。義務教育の段階から、正しい知識を持って、放射線を正しく怖がるとよく言われることですが、正しい知識で正しく怖がる、何が安全であるか何が安全でないかということをやはり身につける必要があるというふうに考えております。
最後になりますが、改めて、今回の災害でお亡くなりになられた方々、被災された多くの方々に対してお悔やみ、お見舞いを申し上げます。私どもの研究所では、今後とも、被曝医療機関の中心として、被曝医療に努力をしてまいりますとともに、放射線の人々への影響、そしてさらに、今度は、人々が、住民が今までのおうちに帰ることができるような環境を回復させるような環境影響研究というものを重点的に行っていきたいというふうに考えております。これを私どもは最大限努力するということを述べさせていただいて、私の意見陳述とさせていただきたいと思います。
本日は、このような機会をちょうだいいたしまして、まことにありがとうございました。(拍手)
○牧委員長 ありがとうございました。
次に、唐木参考人にお願いいたします。
○唐木参考人 日本学術会議の唐木でございます。
きょうは、お手元にあると思いますが、「放射性セシウムと食品の安全」という資料を使って説明をさせていただきたいと思います。
最初に、日本学術会議を多分御存じない方もいらっしゃると思いますが、日本には八十三万人の研究者がいると言われております。これは、人文社会学、生命科学、理工学、すべての分野で八十三万人ということですが、その中から二百十名の研究者が内閣総理大臣から会員として任命され、集まっているところが日本学術会議でございます。
その役割は、政府に対して科学技術に対する政策を提言すること、それから科学技術に対するコミュニケーションを一般の方ととること、それから世界の科学者、日本の科学者のコミュニティーの連絡をとること、そのような役割を果たしております。
本日は、私の専門が食品の安全でございますので、食品の安全と放射線の関係について説明をさせていただきたいと思います。
まず、一ページ目の下の方の図ですが、横軸には放射性物質あるいは化学物質の量をとってあります。両方とも、量が多ければ健康への悪影響はどんどん大きくなるという関係があるということは一致しておりますが、一つ、ここで二種類にそれが分かれるのは、ほとんどの化学物質、それから放射線もそうですが、閾値という値があります。先ほど明石先生のお話にも出てきましたが、この閾値というのは、一応安全と危険の境目というふうに言ってもいいと思います。閾値以下だったら体には影響がない、閾値以上だったら影響があるということです。化学物質のほんの一部は、閾値がないというふうに考えられております。また、放射線も閾値がない作用があるというふうに考えられております。
この二種類があるということで、次のページの上の方に行きますと、閾値がある化学物質について、我々は食品安全委員会で規制を行っています。これのやり方は比較的簡単です。閾値という値が、一応安全と危険の境目がありますので、それから百分の一あるいはそれ以上の安全係数をとりまして、そこから下のところに、一日摂取許容量という量を設定いたします。これは、一生の間、毎日食べ続けても体に影響がない量ということでございます。これを食品安全委員会が設定しますと、厚生労働省はこの値をもとにしまして、いろいろな食品を食べても、この一日摂取許容量に達しないように、それぞれの食品についての規制値を設定いたします。ということで、規制値というのは、安全と危険の境目よりもずっと厳しいところに決められているということです。すなわち、規制値は安全と危険の境ではない、行政が対策を始める目安であるというのが規制値です。
ところが、ここのところが大変大きな誤解を呼んでおりまして、規制値が安全と危険の境目であって、規制値を超えたものはすぐ危険だというふうな誤解が非常に広く行き渡っております。ここのところが、今回のセシウム問題でも一つの大きな混乱の原因になっているのではないかというふうに思います。
次は、その下の方の図ですが、それでは閾値がない場合にどういうふうにするのかということです。これは安全と危険の境目がはっきりしない。化学物質の場合は簡単です。こういう化学物質の使用はすべて禁止いたします。これは、農薬としても添加物としても禁止する。ですから、非常に簡単に規制ができるということです。
ところが、放射線については、今回のような場合には、禁止するといっても、もう既に存在するわけです。存在するものについては、何かの規制をしなくてはいけない。それをどうやってやるのか、どこまでが安全なのか、ここが非常に大きな議論のところです。これの目安になるのが、広島、長崎の被爆者の経験、あるいはそのほかの放射線の障害の経験です。
次のページにありますように、それを国立がん研究センター及び食品安全委員会がまとめたものがグラフになっておりますが、横軸にがんのリスクをとってあります。一というのは、我々はだれでも三〇%はがんで死にます。五〇%の人はがんになって、致死性じゃないがんも含めるとそのぐらいになると言われておりますが、それを一ととっております。
そのがんのリスクがどれだけふえるのかを見てみますと、放射線が、一番下、二千ミリシーベルトになると二・五倍になる、これはかなり危険だということになります。その上にありますが、喫煙者ですね、たばこを吸うと一・六倍になる。あるいは、お酒を一週間にアルコール換算四百五十グラム以上飲むと一・六になる。それから、放射線千ミリシーベルトだと一・五、五百ミリシーベルトだと一・三。それから、やせたり太ったりすると、大体一・二から一・三ぐらい。運動不足が一・一五。塩辛いものを食べると一・一一。放射線二百ミリシーベルトだと一・一。その上に行きますと、野菜不足だと一・〇五。受動喫煙、だれかがそばでたばこを吸っている、それをたばこを吸わない女性が吸い込む、そういう状況があると一・〇二。こんなような値が出ております。
そこから上、放射線百ミリシーベルト以下の量、これを低線量といいますが、これにつきましては、右の上に書いてあるように、百ミリシーベルト以下の放射線のリスクは、ゼロではないけれども極めて小さい。ではどのぐらい大きいんですかということがよくわからないということでございます。
その下の方の図になりますと、こうなると、安全と危険の境目はどこなんだろう、規制値の決め方はどうするんだろうという最初の疑問に戻るわけですが、上の方の図からいいますと、百ミリシーベルト以下の放射線のリスクは、ゼロではないけれども極めて小さいということで、今回のような緊急時は、百ミリシーベルト以下の放射線であれば許容できるのではないかというのがICRPの勧告です。
それから、昨日出ました食品安全委員会の報告でも、生涯かかって百ミリシーベルトまでの放射線であれば、これは極めて危険とは言えないというような結果が出ております。
そういうことで、一応百ミリシーベルトというのが一つの境目になるのではないだろうかという考え方があるわけですが、また上の方の図に戻っていただきまして、それでは食品の基準はどうなっているのかというと、現在は、暫定基準、五ミリシーベルトです。五ミリシーベルトというのは、百ミリシーベルトからいうと二十分の一という非常に厳しいところになっております。
その上にあるのが、自然放射線を我々は年間一・五ミリシーベルト、だれでも浴びている。それからその上が、平常時は、自然放射線ではない人工放射線を浴びる量は一ミリシーベルトにしましょうという規制が一応ある。それから、その最後の一番上に書いてあるのが牛肉のセシウム基準です。これは五百ベクレル・パー・キログラムということですが、これをミリシーベルトに換算いたしますと、〇・〇〇八ミリシーベルト・パー・キログラム、こういう値になります。
なぜこんな厳しい値になったんだろうかということもよく聞かれます。これは、次のページをめくっていただきますと、セシウムの基準の決め方が書いてあります。基準は、ここの表にありますように、肉につきましては、一番下にありますように肉・卵・魚・その他の分類、五百ベクレル・パー・キログラムですが、これはどうやってできたのかというと、食品全体で年間五ミリシーベルトを超えないようにしましょうというのが厚労省の暫定基準です。
そうすると、ここの表にありますような五種類の食品群に一ミリシーベルトずつ当てはめると、トータル五ミリシーベルトになるわけですが、そうすると、各群の食品の今度は内訳を決めるわけです。肉・魚・卵・その他で一ミリシーベルトを超えないようにするにはどうしたらいいのかということで、日本人がそれをどのぐらい食べているのか、そのほかを全部当てはめてみますと、牛肉の基準は五百ベクレル・パー・キログラム、〇・〇〇八ミリシーベルトというような厳しい基準になる、こういうやり方をやっているわけです。
先ほども申し上げましたように、これは安全と危険の境目ではなくて、これを超えたら何かがおかしいから行政がその対策を始めましょう、こういういわゆるアラートの基準、こうい、うことになっております。
その下にあります「「セシウム汚染牛肉」の安全性」というところに書きましたように、それでは、この基準を超えた肉を食べたらどうなるんだろうかということです。この基準がそもそも、食品基準五ミリシーベルトの六百二十五分の一に当たりますから、それが、今回見つかった牛肉は、基準を三倍から八倍超えたものが見つかっております。仮に基準を十倍超えた牛肉を一日二百グラムずつ、五日間食べたとしても〇・〇八ミリシーベルトで、健康への悪影響は心配しなくてもいいレベルということでございます。
もし基準を十倍超えた牛肉を毎日一キロずつ、六十三日間食べ続けると、やっと食品基準の五ミリシーベルトに近づくけれども、これでさえ非常に安全な値ですから心配しなくてもいい、こういう値になっております。
また、次のページに行きまして、セシウムは体内に三十年もとどまるからこれは大変だというお話もありますが、確かに、セシウムは、物理学的半減期というのは三十年ですけれども、もう一つ、生物学的半減期というのがありまして、セシウムはカリウムとかナトリウムと同じようにどんどん体から出ていくということで、一歳までのお子さんだったら九日で半分になってしまう。九歳までだったら三十八日。私の年になると、多分三カ月以上かかって半分になる。そんなことで、いずれにしろ、三十年よりずっと短い期間で半分になっていくという、そういう性格もございます。
最後の十番目のスライドですが、それでは今の食品を守るシステムが働いていなかったんじゃないのか、そういうお話もございますが、そうではないということで、これは、食品の安全を守る仕組みというのは四段階あります。
一段階目は、安全の目標を立てて、それに合うように厳しい規制を行うということです。ここで誤解があるのは、下に括弧して書いてありますように、安全の目標というのはリスクをゼロにすることではない、体に影響が出ないようなところまでリスクを下げる、これを絶対安全と実質安全の考え方といいますが、実質安全という現実論で目標を立てるということです。
それから二番目は、厳しい規制は行っていますが、これは先ほどから何度も申し上げておりますように、規制というのは対策を始める目安であって、安全と危険の境ではないということです。
食品の安全を守る仕組みの三番目は、検査と違反の発見です。この検査というのは、今、全頭検査をしろというお話がありますが、食品の検査の基本は抜き取り検査です。というのは、加工食品を検査する場合は、全部壊しちゃうわけですね。全品壊して検査したら食べるものがなくなってしまうということで、ロットの中から少数のものを取り出して検査をする。ロットというのは、大体中身は均質ですから、一ロットから一つ、二つ取れば残りはわかる、こういう考え方でやっております。これでもし違反を発見したら行政処分をするために、この基準というのは先ほどから言っているように非常に厳しいところに決めています。
そうすると、それで四番目が行政処分と改善が行われるということで、いわゆるPDCAサイクルが回るわけですけれども、ここで今も問題になっているのは、検査をすり抜けた違反食品を食べちゃったら大変だ、だから検査をしろという話もございます。これは下の括弧の中にありますように、基準が非常に厳しいので、たとえ基準を十倍超えたものを食べても体に何の影響もない、こういう仕組みになっております。
ということで、今回の問題は、この仕組みの中の二番目ですね、安全を守る努力と規制の遵守というところが残念ながら守られていなかったために汚染が起こったということでございますが、その結果、稲わらの検査というものが徹底され、再発が防止され、また、汚染したおそれのある牛肉はすべてとまっているということで、牛肉の安全性は守られている。あるいは、食べてしまった人についても、こういった仕組みで健康には影響が出るおそれはないということで、食品の安全を守るシステムとしては機能したということであろうというふうに考えております。
以上です。どうもありがとうございました。(拍手)
○牧委員長 ありがとうございました。
次に、長瀧参考人にお願いいたします。
○長瀧参考人 長瀧でございます。
最初に自己紹介になりますが、私、原爆の被爆者に関しましては、長崎大学に一九八〇年に赴任しましたときから、原爆放射線の影響を科学的に調査して、国際的に発信する、そして被爆者の援護に尽くすということを目的として行動してまいりました。それから、退官後は、放射線影響研究所におきまして、被爆者の調査並びに治療に理事長として責任を持って行動いたしました。
チェルノブイリの原発事故に関しましては、一九九〇年にソ連が外国に門戸を開放したときから、長崎大学の教授として、教室員とともに調査に参加いたしました。原爆の場合と同じく、チェルノブイリ事故の放射線の影響を科学的に調査して、国際的に発信するということ、そして被曝者の救済に人道的に尽くすということを目的としてまいりました。
初期の十年間は特に頻繁に現地を訪問いたしましたし、チェルノブイリ事故の国際機関による十年目のコンファレンス、あるいは二十年目のまとめのコンファレンス、これはWHOなど八つの国際機関と被害を受けた三つの共和国の共催でありましたが、そこにも積極的に参加いたしました。
また、ジェー・シー・オーのときには、周辺住民の健康管理検討委員会の主査として報告書を作成いたしました。
今申し上げましたような基礎から、私自身としましては、原子力災害におきまして、内科の医者として放射線の健康への影響を科学的に調査し、科学的な結果を発表するということ、もう一つは、原爆被爆者、チェルノブイリの被曝者などに科学的に正しい、確実な放射線の情報を伝えて、被害者の援護、救援に努力をするということが、私の基本的な態度であり、立場であります。また、そういう立場でお話しさせていただきます。
次のページは、原爆被爆者の調査結果をまとめてお話しいたします。
急性の方は今回省略いたしますが、晩発影響というのがございまして、これは急性影響の後にあらわれる影響で、被爆後六十年以上過ぎた現在も認められるものであります。
特徴は、一人の患者さんを幾ら調べても、例えば肺がんの患者さんを幾ら調べても、それが放射線の影響かどうかはわからないということであります。これは、現在のどんな医学のレベルを持ってきても現在はわからない。
したがって、晩発影響を調べるには、疫学的、統計学的な手法によらざるを得ない。すなわち、被曝線量の推定されている母集団、放影研としては現在十二万人ございますけれども、それを一九五〇年から追跡調査しまして、死亡の原因あるいは罹患した病気と被曝線量の関係を調べるわけであります。
その結果を非常に省略してまとめて模式図にあらわしましたのがその下の図でありますが、一言で言いますと、被曝線量と発がんリスクは直線関係であるということであります。そしてもう一つは、疫学的には百ミリシーベルト以上について有意な関係が得られたということでございます。
直線関係でありますので、千ミリシーベルト浴びますと、原爆ではがんが一・五倍、ICRPの報告によりましては急性の被曝ではがんが一〇%。ですから、その十分の一の百ミリシーベルトでは、がんのリスクが一%増加するというのがその結果であります。
その次のページに、ごく一例として、いかに調査が確実に行われているかということだけをお示しします。上の表の左側は線量でありますが、被曝線量も細かく分けている、そして対象者も何十何人、また、それぞれのグループの何人ががんで死亡したかということも、戸籍を使いまして、非常に正確に四十年、五十年調査をしているわけであります。これに基づいた疫学的な結果というのは、これは世界のどこにもないということで、御紹介したいと思います。
原爆の結果は今でも世界のスタンダードになっておりますけれども、ここではUNSCEARという、原子放射線に関する国連科学委員会のことを御紹介したいと思います。
このUNSCEARといいますのは、一九五〇年代に世界じゅうで核実験が行われ、放射性降下物による被曝の懸念から、核実験によって放出される放射性物質による環境への影響と人への健康影響についての情報を収集、評価することを目的とした委員会を設置するということが第十回の国連総会で提案されまして、一九五五年に満場一致で可決されたというものでございます。
この委員会は二十カ国以上の国連参加国の代表で成りまして、委員長は非核保有国の代表がなる。そして、純粋に科学的所見から調査報告書をまとめるということを意図してつくられたものでございます。その独立性と科学的客観性から、国際組織の中ではUNSCEARの報告というのは非常に評価が高いということでありまして、現在でも、科学的な放射線のまとめの代表的な組織であります。
昨年でありますけれども、その報告書の中で書いてありますのは、固形がんすべてを総合した日本の原爆被爆者のデータはこの関係を最も明確にしているということでありまして、赤で書きましたように、そして統計学的に有意なリスクの増加は百から二百ミリグレイ、あるいはそれ以上で認められる、疫学的な方法ではこの線量以下のリスクの増加を認めることはできないということになっております。
その次の表は、百ミリシーベルト以下の放射線の影響は先ほど認められないと申し上げましたけれども、これは先ほどの唐木先生と同じでありますが、がんセンターのホームページで見ますと、百ミリシーベルトの影響は、野菜不足、受動喫煙と同じで、百ミリシーベルト以下は、ほかのがんのリスクのために、放射線の影響だけを観察することは難しいということで、疫学的な方法としては、これ以下の影響は科学的に証明されていないということは申し上げてよろしいかと思います。
次に、チェルノブイリの経験について申し上げますが、時間の関係で、これは二〇〇六年のIAEA、WHOなど八国際機関、三共和国の発表と、それから二〇一一年、ことしの二月でありますけれども、先ほど申し上げましたUNSCEARの報告書をここに御紹介いたします。
急性影響としましては、原発の中で働いた人が主でありますけれども、百三十四名に急性放射線症が認められた。その中の二十八名は高線量被曝によって三週間以内に亡くなっております。その後十九名が亡くなったけれども、これは被曝との関係は明らかではないということ。
それから、原発の周辺で二十四万人が汚染除去作業で百ミリシーベルト被曝した。しかし、その健康影響は認められなかった。白血病の増加も有意ではない。
それから、あとは、一番の問題の住民でありますが、十一万四千人が避難した。これが平均して三十三ミリシーベルト。二十七万人は高線量の地域にそのまま住んでおりまして、これは大事でありますけれども、そして五十ミリシーベルトの被曝。五百万人は低線量で十から二十ということが一応まとめとして書いてございますが、この中で、放射線に起因する健康影響のエビデンスは認められなかったという報告書でございます。
ただ、例外として、汚染されたミルクを飲んだ子供の甲状腺がんがございまして、それは六千人ぐらい。だけれども、二〇〇六年までの死亡者は十五人であるという発表でございます。
その次のページに我々自身が現地で測定した結果をちょっと簡単にお示ししますが、チェルノブイリ事故による汚染地と子供の体内セシウム、今体内セシウムが話題になっておりますので、簡単に御紹介いたします。
上の図は汚染地域でありまして、これらの地域に住む子供のホール・ボディー・カウンターによる体内セシウム137をはかったのが下の表であります。体内ベクレルというのが、途中、右の方に書いてございますが、これは五十ベクレル・パー・キログラムから五百ベクレル・パー・キログラムまでいろいろな量の方がいらっしゃいます。これは、我々が測定すると、五百ベクレル・パー・キログラムというのは、計器を見ておりますと非常に被曝しているという印象があるんですけれども、これも計算いたしますと年間一・二五ミリシーベルトということでありまして、そして、チェルノブイリの先ほどの影響が認められなかったというのも、一ミリシーベルト・年間ぐらいの被曝では臨床的な影響は出なかったんだろうということは理解できるわけであります。
最後に、ICRP、しょっちゅう出てまいりますが、ちょっと御紹介させていただきますけれども、ICRPの前身というのは国際エックス線ラジウム防護委員会、一九二八年に設立されたものでありまして、一九五〇年に現在の名前に改組された非営利組織の団体であります。
現在は、放射線防護という立場で、放射線の影響は、先ほど申し上げました百ミリシーベルト以下は認められないというUNSCEARの結論を理解した上で、百ミリシーベルト以下でも影響はあると仮定して始まっているということでありまして、その下の文章は直接ICRPの文章からとったものであります。簡単に言いますと、先ほどお示ししました原爆の図の百ミリシーベルト以下も同じような線を引けるという仮定でいろいろと放射線防護を考えようということであります。
そして、その次のページに書きましたように、ICRPの理念というのは、ALARAと申しまして、アズ・ロー・アズ・リーズナブリー・アチーバブルということであります。これは英語を日本語に訳しただけでありますけれども、少しずつ変わっておりまして、一九五九年には、実際的に可能な限り低く維持する、一九六六年には、容易に達成可能な限り低く維持する、それから一九七三年には、経済的及び社会的な考慮を行った上で、合理的に達成できる限り低く維持するというものでありまして、決して基準値を守れということではない。このALARAの精神からいいますと、緊急時には、当然、影響が認められている百ミリシーベルトまでは許容範囲に入るわけであります。
それで、これをもとにしまして福島の原発を考えましたときに、放射線の影響と防護の影響の両方を考慮しなければいけない。これは、先ほど言いました合理的に達成できる範囲で可能な限り放射線量を低くという立場からいいますと、放射線による具体的な被害、これは単に想像ではなくて現実に国際的に認められた放射線の影響と、それから防護のための具体的な被害がございます。
これは、生活の変化、例えば住居、財産、近所づき合い、あるいは職業など、非常に大きな変化がございます。それから、子供の場合も、避難したり、転校、運動制限、野菜不足、何よりも精神的な影響というのが大きい。このバランスを考えて対策を決めるということがICRPの根本であります。したがって、先ほど申し上げましたように、緊急の場合にそれぞれの参考レベルがあるわけであります。
まとめますと、未曾有の緊急事態で、事故はまだ収束していないということであります。緊急事態の各段階に応じてきめ細かく、周辺住民の被害を最小にすることを最大の目的として、冷静に住民とのきめ細かい対話を繰り返して対策を決めるということがALARAの精神でありまして、決して線量だけが問題ではないということ、全体として住民のことを考えるということをぜひ政治家の先生方にお願いしたい。
チェルノブイリの原発の教訓としましては、健康被害、身体的影響は今お話ししたとおりでありますけれども、御承知のように、ソ連邦は解体いたしましたし、経済的な破綻によって住民は塗炭の苦しみ、しかも、精神的影響から立ち直れない数百万人の人がいる。これは精神的な影響のために自立できないという人がいまして、すべて政府に頼って生活しているという方が数百万人。
報告書は、むしろ健康影響よりは、こういう人たちをつくったということ、こういう人たちをどうするかということが大きな問題であるということでありまして、これは我が国の場合も十分に教訓として参考にすべきだろう。
そして、最後でありますけれども、福島原子力発電所の事故はレベル7、いまだに収束していない前代未聞の出来事であります。
原爆被爆者を持つ日本として、原子力災害に関しても、日本のすべてを総合して、厚生労働省も政府の一員として総合的な視野で関与し、世界に向けて、日本として理想的な対策を発信できるということ、ICRPを変えるだけの発信をするということを期待しております。よろしくお願いいたします。
どうもありがとうございました。(拍手)
○牧委員長 ありがとうございました。
次に、沢田参考人にお願いいたします。
○沢田参考人 沢田です。
私は、広島の原爆の被爆者の一人なんですけれども、十三歳のときに爆心地から千四百メートルのところで被爆をしました。私はつぶれた家の中からうまくはい出すことができましたけれども、同じ部屋にいた母親は柱か何かに足を挟まれて動けないということで、とうとう火事になるまで助け出すことができませんでした。そういう体験を持っているんですけれども、被曝の方は、千四百メートルですから、初期放射線もそれなりに、それから放射性降下物の影響もそれなりに受けていると思うんですけれども、これは両親に感謝しなきゃいけないんですが、放射線に対する抵抗力が強かったのか、急性症状も晩発性症状も今のところ起こしていないということなんです。
今回の福島原発の事故を考えますと、再び放射能で侵されるようなことがないようにしてほしいなということを思っています。その意味では、政治家の皆さんが、今、福島でいろいろな放射線の影響を受けていらっしゃる方の被曝影響をできるだけ最小限に抑えるということに政治的な力を発揮していただきたいということをお願いしたいと思います。
私が放射線の影響の研究を始めるようになったのは一九九〇年代の終わりごろなんですけれども、当時、後で報告してくださる今中さんたちの広島、長崎の原爆の放射線をはかる、そういう測定グループに入れていただいて、そして初期放射線の線量評価、当時は一九八六年放射線線量評価という、DS86と言われていますけれども、それの遠距離が過小評価になっているということを見つけて、そして原爆症認定の裁判で私が研究した結果を報告しました。
それがきっかけなんですが、そのとき感じたことは、初期放射線の遠距離の過小評価を実測値に合わせて修正したとしても、そのときの原告であった人たち、あるいは証言に立たれた人たちの脱毛が起こったというような事実を説明することはできないわけですね。そのことを説明するためには、どうしても放射性降下物の影響を考えなきゃいけないということに気づきました。それで、いろいろな調査結果を調べてみたんですけれども、そういう放射性降下物の影響、被曝線量について研究している研究結果というのはほとんどないということに気がつきました。
私は専門が素粒子物理学なんですけれども、そういうことで、原爆症認定の訴訟にかかわるためにはそういう放射性降下物の影響をちゃんと調べなきゃいけないということに気づいて、研究を始めました。
そこに図がありますが、左側の上の図は、これは原爆傷害調査委員会、ABCCというふうに当時言われていますけれども、一九五〇年前後に、被爆者の髪の毛が抜ける脱毛、これは特に重度脱毛について調査した結果です。縦軸のところ、ちょっと名前が消えていますけれども、一番左側のところに発症率と書いていただきたいんです。発症率はパーセントです。
それで、当時の調査結果をまとめたものを一九九〇年代になってプレストンたちが発表したわけです。LSSというのは、寿命調査集団、ライフ・スパン・スタディーという放射線影響研究所の、先ほど長瀧先生がお話しになりましたけれども、約十二万人の調査の結果ですけれども、左側の図の赤い四角がありますね、これが調査した広島の脱毛の発症率です。
放射線影響研究所というのが一九七五年にABCCを引き継いで始めたわけですけれども、ABCCのときから放射線影響研究所のときも引き続いて、初期放射線の影響を明らかにするというのが研究所の基本方針です。
ということで、一九八九年に放射線影響研究所のストラムと水野さんたちが、この赤い四角のデータから初期放射線の影響だけを引き出すという研究をされました。その得られた結果が今度は上の右側の図の黒い丸、これを導かれました。
でも、この図を見ますと、すごく低線量のところも急激に立ち上がっていますし、それから、高線量の四グレイ、これはグレイでもシーベルトでもいいんですけれども、四グレイというのは約半数の人が死亡する線量ですね。それを超えたところでは、逆に発症率が横ばいになっている。これも縦軸は発症率のパーセントなんですけれども、そういうことになっています。
私は、ちょっと疑問を持ちまして、この調査結果から逆算して、左側の図のところに彼らの得た初期放射線の影響というのをひし形の形で示しました。そうしますと、この四角とひし形のずれというのが放射性降下物の影響であるということになります。
それをもとにして、右側の図の赤い曲線というのが、これは正規分布であるというふうに仮定したわけですけれども、その曲線を使ってこの四角を分析しますと、その下側の図のようになりました。細い点線、これが初期放射線による被曝です。初期放射線は、主に外からぴかっとした瞬間に体外から浴びる外部被曝ですね。そして、それを全体の被曝線量から差っ引きますと赤い曲線になります。これが放射性降下物による被曝です。主にこれは内部被曝です。
これまで日本政府や放射線影響研究所が調べてきたのは、放射性の雨が降って、それが地面の中にしみ込んで、それが台風やいろいろなことで流されないで残ったものから推定した放射性降下物の影響ということで、この図の下の方に、放射性降雨による推定、最大被曝値というので己斐・高須地域というのがありますけれども、それによると、もうほとんどゼロに近いところの被曝線量になっています。ですから、この雨から調べたことと、それから実際に被爆者の中で発症した急性症状である脱毛から調べた違いというのが、実際に被爆者が受けた大きな違いになるわけですね。
次のページにありますが、これは於保源作さんという方が、広島の被爆者を、爆心地から距離ごとに、三種類の被曝急性症状を調べました。四角が脱毛です。それから、丸印が、紫色の斑点が出る皮下出血ですね。それから、三角が下痢です。これもやはり縦軸は発症率のパーセントです。この図を見ていただきますと、脱毛と紫斑というのはほぼ同じように距離とともに変化していますね。ところが、下痢の方は近距離で発症率が逆に小さくなっています。遠距離の方は、逆に今度は下痢の方が発症率が高くなっています。
この違いは何かというと、近距離では初期放射線が大量に到達します。その初期放射線を体外被曝する場合の影響が、主にガンマ線が腸の内壁まで到達するわけですけれども、ガンマ線は透過力がすごく強いわけですね。透過力が強いということは、放射線の影響というのは電離作用によって起こるわけですけれども、まばらに電離作用していくというのが透過力が強いということにつながるわけです。まばらに電離作用しますからなかなかエネルギーを失いませんので、ずっと透過力が強くなるわけですね。ということで、腸壁に到達しても、薄い腸の粘膜、表面の表皮にまばらな電離作用では余りダメージを与えることにならないんですね。ですから、ガンマ線はかなり大量の線量でないと下痢は発症しないということになります。
ところが、遠距離の方は、放射性降下物の物質を呼吸とか飲食を通じて体内に取り込みます。そうすると、透過力の弱いベータ線が大きな力を発揮するわけです。ベータ線はすごく密度の高い電離作用を起こしまして、そしてエネルギーを急速に失います。体内に入ると、一センチも走らないうちにとまってしまうぐらいの密度の高い電離作用を起こすわけですね。そういう放射性物質が腸壁のすぐそばまでやってきますと、腸壁にすごく大きなダメージを与えるので、下痢が発症するわけです。というわけで、遠距離の放射性降下物による下痢の発症というのが脱毛や紫斑に比べてはるかに高い発症率を示しています。
そういうことを考慮しますと、右側にあるんですけれども、赤い線が脱毛やそれから紫色の斑点がある紫斑の被曝線量と発症率の関係ですけれども、遠距離の内部被曝の方はもっと左寄りの方に関係がある、それから外部被曝の方はもっと右の方に関係がある、そういう正規分布にして先ほどの図を解析しますと、下にありますように、初期放射線と放射性降下物をほぼ同じ被曝線量で説明することができるということを見出しました。
同じことは長崎にもありまして、三ページの図に、上の方は、これは長崎県と長崎市が十二キロまで調査をしたわけですけれども、その脱毛、紫斑、下痢の調査です。やはりここでも、下痢は近距離では発症率が低くなっていますね。近距離の方は、ほとんどの被爆者が死亡しています。ということでデータの誤差が大きいわけですけれども、これを解析した結果が、やはり下の方の図になります。初期放射線は急速に減少して、二キロあたりでもうほとんどゼロに近づいています。しかし、放射性降下物による内部被曝の影響は、調査が行われた十二キロまでほとんど変わらないということを示しているわけですね。
広島に比べて長崎の方が遠距離まで千二百ミリシーベルトあるいは千三百ミリシーベルトというすごく大きな被曝をしているというのは、長崎原爆の方が爆発力が強かったということを示しているわけです。
西山地域というところが、放射性の雨が降ったことによる残留放射線の測定から得られたことですけれども、これからおわかりいただけるように、被曝実態から大きくかけ離れているということがおわかりいただけると思います。
こういう影響を無視して研究した放射線影響研究所の研究は、結局、近距離の初期放射線の影響は明らかにすることができたと思いますが、遠距離のこういう内部被曝についての研究は余り貢献をしていないということになるわけですね。私は、ぜひ、放射線影響研究所も、そういうことを踏まえた研究に方向転換していただきたいなと思います。
次のページは、放射線の影響なんですけれども、先ほど言いましたように、ガンマ線は透過力が強いので、ぽつんぽつんとDNAなどの二重らせんを切断しますけれども、ベータ線の方は接近して切断します。接近して切断すると、修復する機能が生物の生体分子にはあるわけですけれども、誤って修復する可能性が強くなるわけですね。電離作用は物すごくたくさんの箇所を被曝させますけれども、数百カ所電離作用を起こしてもほとんどが正常に修復するわけですけれども、接近して切断されるということが起こりますと、誤って修復する可能性がすごく高くなるわけですね。そういう意味でも、内部被曝の影響はすごく深刻になります。
放射線影響研究所の方は、そういうことで、現在起こっている福島原発の事故というのは、内部被曝が主要な影響ですから、それには余り役に立たないということになってしまいます。でも、放射線影響研究所の研究をもとにして、残留放射線の影響も考慮して解析すれば、同じ結果が出ます。
下の方は、広島大学の原医研の早川さんたちが調べた結果をもとにして、横は、被曝線量は、放射性降下物の影響も含めて計算しました。その結果、広島県民が、非被爆者ですけれども、発症率が〇・一八六%、これは年間の悪性新生物による死亡率です。一キロ以内はほとんどの被爆者が死亡していますのでデータの誤差が大きいということと、それから抵抗力の大きい人たちしか残っていないということなわけで、これを除いて直線でフィットしますと、そこのカーブのようになりまして、死亡率が〇・一三八%掛け被曝線量プラス〇・一八六%という結果が得られました。これをもとにすれば、内部被曝の効果も考慮に入れた被爆のいろいろな影響が明らかにできると思います。
最後の五ページの図は、今お話ししたことの全体像をまとめたわけですけれども、私が研究した結果を、二〇〇九年にギリシャのレスボス島で開かれたヨーロッパ放射線リスク委員会で報告しました。そこには、著名な科学者たちがたくさん参加していましたし、チェルノブイリの研究をやっている人たちも参加しました。その人たちが私の報告を聞いて口々におっしゃることは、これで広島や長崎の被爆者の影響と私たちの研究がかなりつながってきたという評価をいただきました。
そういうことも踏まえて、このレスボス島の会議では、レスボス宣言というのを発表しました。それは、添付した資料にありますように、内部被曝の影響を軽視した国際放射線防護委員会の基準というのをきちんと見直さなきゃいけないということを要求しているのがこの宣言です。
この宣言のどこかに私はミスプリントをちょっとしているので、それは後で直していただきたいと思いますけれども、以上で私の報告を終わります。
どうもありがとうございました。(拍手)
○牧委員長 ありがとうございました。
次に、児玉参考人にお願いいたします。
○児玉参考人 私は東京大学アイソトープ総合センター長の児玉ですが、三月十五日に大変に驚愕いたしました。
私ども東京大学には二十七カ所のアイソトープセンターがあり、放射線の防護とその除染などの責任を負っております。私自身は内科の医者でして、東大病院の放射線施設の除染などにずっと数十年かかわっております。
それで、三月十五日に、ここの図にちょっとかいてあるんですが、我々、最初にまず、午前九時ごろ、東海村で五マイクロシーベルトという線量を経験しまして、それを第十条通報という、文科省に直ちに通報いたしました。その後、東京で〇・五マイクロシーベルトを超える線量が検出されました。これは一過性に下がりまして、次に、三月二十一日に東京で雨が降り、〇・二マイクロシーベルト等の線量が降下し、これが今日に至るまで高い線量の原因になっていると思っています。
それで、このときに枝野官房長官が差し当たり健康に余り問題はないということをおっしゃいましたが、私はそのときに、実際にこれは大変なことになると思いました。なぜかというと、現行の放射線の障害防止法というのは、高い線量の放射性物質が少しあるものを処理することを前提にしています。このときは総量は余り問題ではなくて、個々の濃度が問題になります。ところが、今回の福島原発の事故というのは、百キロメートル圏で五マイクロシーベルト、二百キロメートル圏で〇・五マイクロシーベルト、さらにそれを超えて足柄から静岡のお茶まで及んでいることは、今日皆さんすべてが御存じのとおりであります。
我々が放射線障害を見るときには総量を見ます。それでは一体、今回の福島原発の総量がどれくらいであるか、東京電力と政府は、はっきりした報告は全くされておりません。
そこで、私どもは、アイソトープセンターのいろいろな知識をもとに計算してみますと、まず、熱量からの計算では、広島原爆の二十九・六個分に相当するものが漏出しております。ウラン換算では二十個分のものが漏出していると換算されます。さらに恐るべきことには、これまでの知見で、原爆による放射線の残存量と原発から放出されたものの放射線の残存量は、一年たって原爆が千分の一程度に低下するのに対して、原発からの放射性汚染物は十分の一程度にしかならない。つまり、今回の福島原発の問題は、チェルノブイリと同様、原爆数十個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと多量の残存物を放出したということがまず考える前提になります。
そうしますと、我々、システム生物学というシステム論的に物を見るやり方でやっているんですが、現行の、総量が少ない場合には、ある人に係る濃度だけを見ればいいです。しかしながら、総量が非常に膨大になりますと、これは粒子です。粒子の拡散というのは非線形という科学になりまして、我々の流体力学の計算でも最も難しいことになりますが、核燃料というのは、要するに、砂粒みたいなものが合成樹脂みたいなものの中に埋め込まれております。これがメルトダウンして放出するとなると、細かい粒子がたくさん放出されるようになります。
そうしたものが出てまいりますとどういうことが起こるかというのが、今回の稲わらの問題です。
例えば、岩手の藤原町では、稲わら、五万七千ベクレル・プロキログラム、宮城県の大崎一万七千ベクレル・プロキログラム、南相馬市十万六千ベクレル・プロキログラム、白河市九万七千ベクレル・プロキログラム、茨城六万四千ベクレル・プロキログラムということで、この数値というのは決して同心円状にも行かない、どこでどういうふうに落ちているかは、そのときの天候、それから、その物質が例えば水を吸い上げたかどうか。
それで、今回の場合も、私、南相馬へ毎週末、七百キロメーター行って、東大のアイソトープセンターは現在まで七回の除染をやっておりますが、南相馬に最初に行ったときには、一台のNaIカウンターしかありません。農林省が通達を出したという三月十九日には、食料も水もガソリンも尽きようとして、南相馬市長が痛切な訴えをウエブに流したのは広く知られているところであります。そのような事態の中で通達一枚出しても、だれも見ることができないし、だれも知ることができません。稲わらがそのような危険な状態にあるということは、全く農家は認識されていない。農家は飼料を外国から買って何十万という負担を負って、さらに、牛にやる水は実際に自分たちと同じ地下水を与えるように、その日から変えています。
そうすると、我々が見るのは、何をやらなければいけないかというと、まず、汚染地で徹底した測定ができるようにするということを保証しなくてはいけません。我々が五月下旬に行ったときに、先ほど申し上げたように、一台しか南相馬になかったというけれども、実際には米軍から二十台の個人線量計が来ていました。しかし、その英文の解説書を市役所の教育委員会ではわからなくて、我々が行って教えてあげて、実際に使い出して、初めて二十個の測定報告というのができるようになっている。これが現地の状況です。
そして、先ほどから食品検査と言われていますが、ゲルマニウムカウンターというのでなしに、今日では、もっとイメージングベースの測定器というのがはるかにたくさん半導体で開発されています。なぜ政府は、それを全面的に応用してやろうとして全国につくるためにお金を使わないのか。三カ月たってそのようなことが全く行われていないことに、私は満身の怒りを表明します。
第二番目です。私の専門は、小渕総理のときから内閣府の抗体医薬品の責任者でして、今日では、最先端研究支援というので三十億円をかけて、抗体医薬品にアイソトープをつけてがんの治療にやる、すなわち、人間の体の中にアイソトープを打ち込むという仕事が私の仕事ですから、内部被曝問題に関して一番必死に研究しております。
そこで、内部被曝がどのように起きるかという問題を説明させていただきます。
内部被曝というものの一番大きい問題は、がんです。がんがなぜ起こるかというと、DNAの切断を行います。ただし、御存じのとおり、DNAというのは二重らせんですから、二重らせんのときには非常に安定的です。これが、細胞分裂をするときは、二重らせんが一本になって、二倍になり、四本になります。この過程のところが物すごく危険です。そのために、妊婦の胎児、それから幼い子供、成長期の増殖の盛んな細胞に対しては、放射線障害は非常な危険を持ちます。さらに、大人においても、増殖の盛んな細胞、例えば、放射性物質を与えると、髪の毛、それから貧血、それから腸管上皮、これらはいずれも増殖、分裂の盛んな細胞でして、そういうところが放射線障害のイロハになります。
それで、私どもが、内部に与えた場合に具体的に起こるもので知っている事例を挙げます。これは、実際には、一つの遺伝子の変異ではがんは起こりません。最初の放射線のヒットの起こった後に、もう一個の別の要因でがんの変異が起こるということ、これはドライバーミューテーションとかパッセンジャーミューテーションとか、細かいことになりますが、参考の文献は後ろにつけてありますので、それは後で、チェルノブイリの場合やセシウムの場合を挙げてありますので、それを見ていただきます。
まず、一番有名なのはアルファ線です。プルトニウムを飲んでも大丈夫と言う東大教授がいるというのを聞いて、私はびっくりしましたが、アルファ線は最も危険な物質であります。それは、トロトラスト肝障害という格好で、私ども肝臓医はすごくよく知っております。要するに、内部被曝というのは、先ほどから一般的に何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうものは全く意味がありません。I131は甲状腺に集まります。トロトラストは肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。これらの体内の集積点を見なければ、全身を幾らホール・ボディー・スキャンをやっても全く意味がありません。
トロトラストの場合の、このちょっと小さい数字なので、大きい方は後で見てほしいんですが、これは、実際にトロトラストというのは造影剤でして、一八九〇年からドイツで用いられ、一九三〇年ごろから日本でも用いられましたが、その後、二十から三十年たつと、肝臓がんが二五%から三〇%に起こるということがわかってまいりました。
最初のものが出てくるまで二十年というのはなぜかというと、最初に、このトロトラスト、アルファ線核種なんですが、アルファ線は近隣の細胞を傷害します。そのときに、一番やられるのはp53という遺伝子です。
我々は今、ゲノム科学というもので人の遺伝子を全部配列を知っていますが、一人の人間と別の人間は大体三百万カ所違います。ですから、人間を同じとしてやるような処理は、今日では全く意味がありません。いわゆるパーソナライズドメディスンと言われるやり方で、放射線の内部障害を見るときにも、どの遺伝子がやられてどういうふうな変化が起こっているかということを見ることが、原則的な考え方として大事です。
トロトラストの場合は、第一段階ではp53遺伝子がやられて、それに続く第二、第三の変異が起こるのが二十から三十年かかり、そこで肝臓がんや白血病が起こってくるということが証明されております。
次に、沃素131、これは、沃素は御存じのとおり甲状腺に集まりますが、甲状腺への集積は成長期の甲状腺形成期が最も特徴的であり、小児に起こります。しかしながら、一九九一年に、最初、ウクライナの学者が甲状腺がんが多発しているというときに、日本やアメリカの研究者は、ネイチャーに、これは因果関係がわからないということを投稿しております。なぜそう言ったかというと、一九八六年以前のデータがないから統計学的に有意だということを言えないということです。
しかし、統計学的に有意ということがわかったのは、先ほども長瀧先生からお話がありましたが、二十年後です。二十年後に何がわかったかというと、八六年から起こったピークが消えたために、これは過去のデータがなくても因果関係があるということがエビデンスになった。ですから、いわゆる疫学的な証明というのは非常に難しくて、全部の事例が終わるまで大体証明できないです。ですから、今我々に求められている子供を守るという観点からは、全く違った方法が求められます。
そこで、今行われているのは、ここには、国立のバイオアッセイ研究センターという、化学物質の効果を見る福島昭治先生という方が、ずっとチェルノブイリの尿路系に集まるものを検討されています。
福島先生たちがウクライナの医師と集めて、五百例以上の、前立腺肥大のときに手術をしますと、膀胱もとれてきます。これを見まして検討したところ、高濃度汚染地区、尿中に六ベクレル・パー・リッターという、微量ですが、その地域ではp53の変異が非常にふえていて、しかも、増殖性の前がん状態、我々から見ますとp38というMAPキナーゼとそれからNFkBというシグナルが活性化されているんですが、それによる増殖性の膀胱炎というのが必発でありまして、かなりの率に上皮内のがんができているということが報告されております。
それで、この量に愕然といたしましたのは、福島の母親の母乳から、二から十三ベクレル、七名で検出されているということが既に報告されていることであります。
次のページをお願いします。
我々アイソトープ総合センターでは、現在まで毎週、七百キロメーター、大体一回四人ずつの所員を派遣しまして、南相馬市の除染に協力しております。南相馬でも起こっていることは全くそうでして、二十キロ―三十キロという分け方が全然意味がなくて、幼稚園ごとに細かくはかっていかないと全然だめです。
それで、現在、二十キロから三十キロ圏にバスを立てて千七百人の子供が行っていますが、実際には、南相馬で中心地区は海側で、学校の七割は比較的線量が低いです。ところが、三十キロ以遠の飯舘村へ近い方の学校にスクールバスで毎日百万円かけて子供が強制的に移動させられています。このような事態は一刻も早くやめさせてください。今、その一番の障害になっているのは、強制避難でないと補償しない、参議院のこの前の委員会で、当時の東電の清水社長と海江田経済産業大臣がそういう答弁を行っておりますが、これは分けてください。補償問題と、線引きの問題と、子供の問題は直ちに分けてください。子供を守るために全力を尽くすことをぜひお願いします。
それからもう一つは、現地でやっていますと、除染というものの緊急避難的除染と恒久的除染をはっきり分けて考えていただきたい。緊急避難的除染を我々もかなりやっております。例えば、ここの図表に出ております滑り台の下、滑り台の下はちっちゃい子が手をつくところですが、この滑り台に雨水がざあっと流れてきますと毎回濃縮します。右側と左側とずれがあって、片側に集まっていますと、平均線量一マイクロのところだと十マイクロ以上の線量が出てきます。それで、こういうところの除染は緊急にどんどんやらなくてはいけません。
それから、こういうさまざまなコケが生えているような雨どいの下、これも実際に子供が手をついたりしているところなんですが、そういうところは、例えば高圧洗浄機を持っていってコケを払うと、二マイクロシーベルトが〇・五マイクロシーベルトまでなります。だけれども、〇・五マイクロシーベルト以下にするのは非常に難しいです。それは、建物すべて、樹木すべて、地域すべてが汚染されていますと、空間線量として、一カ所だけを洗っても全体をやることは非常に難しいです。
ですから、除染を本当にやるというときに、一体どれくらいの問題があり、どれくらいのコストがかかるかということを、イタイイタイ病の一例を挙げますと、カドミウム汚染地域、大体三千ヘクタールなんですが、そのうち千五百ヘクタールまで、現在、除染の国費が八千億円投入されています。もしこの千倍ということになれば、一体どれほどの国費の投入が必要になるのか。
ですから、私は四つのことを緊急に提案したいと思います。
第一番目に、国策として食品、土壌、水を、日本が持っている最新鋭のイメージングや何かを用いた機器を用いて、半導体のイメージ化は簡単です、イメージ化して、流れ作業にして、シャットしていってやるということでの最新鋭の機器を投入して、抜本的に改善してください。これは今の日本の科学技術力で全く可能です。
二番目。緊急に、子供の被曝を減少させるために新しい法律を制定してください。
私の現在やっているのは、すべて法律違反です。現在の障害防止法では、各施設で扱える放射線量、核種などは決められています。東大の二十七のいろいろなセンターを動員して、現在南相馬の支援を行っていますが、多くの施設はセシウムの使用権限や何かは得ておりません。車で運搬するのも違反です。しかしながら、お母さんや先生たちに高線量のものを渡してくるわけにはいきませんから、今の東大の除染では、すべてのものをドラム缶に詰めて東京へ持って帰ってきております。受け入れも法律違反、すべて法律違反です。
このような状態を放置しているのは国会の責任であります。全国には、例えば国立大学のアイソトープセンターというのは、ゲルマニウムを初め最新鋭の機器を持っているところはたくさんあります。そういうところが手足を縛られたままで、どうやって国民の総力を挙げて子供が守れるでしょうか。これは国会の完全なる怠慢であります。
第三番目。国策として、土壌汚染を除染する技術を、民間の力を結集してください。
これは、例えば、東レだとかクリタだとかさまざまな化学メーカー、千代田テクノルだとかアトックスというような放射線除去メーカー、それから竹中工務店や何かさまざまなところは、放射線の除染などに対してさまざまなノウハウを持っています。こういうものを結集して現地に直ちに除染研究センターをつくって、実際に何十兆円という国費がかかるのを、今だと利権絡みの公共事業になりかねない危惧を私はすごく持っております。国の財政事情を考えたら、そんな余裕は一瞬もありません。
どうやって除染を本当にやるか。七万人の人が自宅を離れてさまよっているときに、国会は一体何をやっているのですか。
以上です。(拍手)
○牧委員長 ありがとうございました。
次に、今中参考人にお願いいたします。
○今中参考人 今中と申します。児玉先生の熱弁の後で、ちょっとたじたじとしております。
私自身は、京都大学の原子炉実験所というところで原子力工学をやっておる者です。それで、私自身、原子力、原発というものは基本的に危ないものだというふうに三十何年前から思っていますので、原発で事故が起きたらどういうことになるのかというのをずっと研究しておりました。具体的には、原発で事故が起きたときの災害評価とか、チェルノブイリの事故が一体どんな事故だったのか、また、広島、長崎の原爆線量の話とかセミパラチンスクの放射能汚染の話なども調べてまいりました。
それで、今回の福島事故についてなんですけれども、ある意味で私は非常に驚きました。ただ、私自身は、三月十五日に二号炉の格納容器が破壊された段階で、ああ、チェルノブイリになっちゃったというふうに確信を持ちました。というのは、放射能を閉じ込めておくべき最後の壁が破壊されたということで、中の放射能がツーツー行け行けで外に出ていくという状態が三月十五日に発生しました。それで、今、児玉先生がおっしゃったように、東京の方にも飯舘の方にも濃い放射能が飛んできたということになったんだと思います。
私自身は、今現在、福島の周り三十キロから、また飯舘は四十キロになりますけれども、住民が避難したということでは、もうチェルノブイリと同じ事態が福島で起きている、起きちゃったというふうに思っております。
私自身、チェルノブイリに行ってよく聞いた言葉は、彼らにとって時代がそこで変わった、チェルノブイリ前とチェルノブイリ後ということで時代が変わったというふうによく聞かされました。私が思うに、やはり日本も福島事故で、ある意味で、福島前、福島後ということで時代が変わってきたのではないかというふうに実感しております。
それで、私自身、時々皆さんから呼ばれて話をすることがあるんですけれども、そのとき何を言っているかというと、日本も放射能汚染と向き合う時代になったんですということを言います。チェルノブイリの人たちもそう言っていました。それで、その後、一番困るのは、今中さん、そう言うけれども、私ら、放射能のことも被曝のことも全然わからへんということで、ううんと考えていまして、結局、私自身は、きょうお集まりの議員さんも含めて、一般の人たちも含めて、ベクレルとは何ぞや、シーベルトとは何ぞやということになじんでいただいて、理解していただいて、そして自分で考えていただくということが一番大事なんだろうと思います。
きょう、余り時間がないんですけれども、お手元の方に資料があるかと思いますので、それに沿ってざっと駆け足で行きたいと思います。
まず、一枚目の下の、私自身、原子炉実験所という原子炉があるところで働いていますので、もう四十年間やっていますので、被曝に対する感覚というのはあります。
そこに書いてありますように、一マイクロシーベルトという被曝、これは一回の作業でする分にはほとんど気になりません。というのは、皆さん今ここにいらっしゃいますけれども、ここでも自然放射線というのがあります。大体一時間当たり〇・〇五マイクロシーベルトと思われて結構だと思います。となると、丸一日じっとしていても一マイクロシーベルトの被曝は外部から受けるということで、これくらいの被曝でしたら、まあ気にしなくていいやと。僕たちはあくまで職業でそれをやっていますから、一般の人はまた別ですよ。
次に、一回の作業で十マイクロシーベルトとなると、これはもう計器に出ますし、ああ、ちょっと浴びちゃったなという感じです。ちなみに、胸部レントゲンで受ける被曝線量が大体五十マイクロシーベルトというふうに言われています。それで、まあちょっと浴びたなと。
次に、百マイクロシーベルトになったら、これはかなり浴びます。これは、我々、放射線測定器ではかる分に、すぐわかります、音でわかります。大体、一マイクロシーベルトを超えたら、ビーという感じで鳴りますから。百マイクロシーベルトを浴びる仕事、これはめったにしません。時間も限りますし、遮へいも考えます。ちなみに、飛行機に乗ってヨーロッパまで行って帰ると、大体五十マイクロシーベルトから百マイクロシーベルトと言われています。ですから、私は、飛行機に乗って向こうへ行って帰るたびに、ああ、被曝しちゃったなと思いながら乗っています。
その次に、その十倍、千マイクロシーベルト、一ミリシーベルト、これは私からしたら大変な被曝です。私は放射線作業従事者ですけれども、一回で一ミリシーベルト浴びちゃいますと、うちにある放射線障害予防規程で一ミリシーベルト以下にしろと書いてありますので、これは私、始末書物になると思います。
その千倍の一シーベルト、千ミリシーベルトが一シーベルトになりますけれども、これはもう大変です。一シーベルトの被曝があったら大変だ。これはもう病院に行って検査してもらう、急性障害が心配される量だということになります。
次のページのその三ですけれども、放射線に被曝すると、一度にぎょうさん被曝すると、細胞が死んじゃって急性障害が出るよと。それで、福島の周りの住民の方々、この人たちには、よくテレビで言われましたけれども、すぐには健康には影響はありません。ただ、後々になってがんとかいった心配がありますよという線量だと思います。これが晩発的影響、また確率的影響とも言われますけれども、では、何でそんな確率的影響みたいな、晩発的影響みたいなものが出てくるかというと、その下にあります。いわゆる放射線を浴びますと、我々の体を構成している分子、原子に影響がある、破壊される。
すなわち、我々、日常的に生活している分に、細胞の中でやりとりしているエネルギー単位は、我々の言葉で一電子ボルトとか二電子ボルトとかそれくらいの量ですけれども、放射線というのは十万電子ボルトとか百万電子ボルトとかいったエネルギーを持ったものが体の中に入ってきますから、場合によってはDNA等が破壊されるということです。
では、それが一体どれくらい生物に影響を与えるかということですけれども、三ページの上の方です。これはムラサキツユクサの雄しべの毛の突然変異というのをはかって観察されたデータです。これは随分古いデータです。もう三十年以上も前のデータですけれども、このデータでしたら、いわゆるエックス線を照射しますと、大体二・五ミリシーベルトに相当するぐらいのところから雄しべの毛の突然変異というものがふえることが観察されるという、これは非常に敏感な生物です。
ただ、私が言いたいのは、我々生物は、発生してから非常に放射線の強い環境で生きてきたというふうに私は思っています。皆さん、自然放射線といったら非常に弱いものかと思われますが、私ども環境放射能をはかっている人間にとっては結構強いものです。そういう中で、我々、日常的にDNAなりそういうものが傷害を受けながら、なおかつ修復、常に傷害を受けて常に修復して生きてきたんだろうと思います。
それで、四ページの七番、「ガンができる仕組み」ということで、児玉先生の方からもありましたけれども、いろいろな傷害が積み重なっていずれがんになるということです。
次に、その下の八番ですけれども、我々、日常的に、一年間で一ミリシーベルトの被曝を受けています。そして、五枚目の九ですけれども、その自然放射線によっても我々はある程度がんになっているのではないかということが言われています。
では、自然放射線によってがんになる影響を観察できるかどうかということで、その下のスライドの十ですけれども、日本国において、自然放射線は場所によってかなり違います。そこの図にあるとおりです。そして、その次のページの十一番ですけれども、では日本国のがんの発生率がどうなっているかというのを国立がんセンターから持ってきたのが十一番です。
これはがん死率の分布です。先ほどのが自然放射線の分布です。その関係をプロットしてみたというのが、その下の「ガンマ線量率とガン死率の関係」。これを見ていただいたら、横軸が自然放射線で、縦ががん死率ですね。結局これは、がん死率に対して自然放射線の影響は認められません。つまり、自然放射線の影響は、がんというものはいろいろな原因でなりますから、その変動の中に隠れて見えないというふうに私は考えています。ないのではないと私は思っています。
では、我々が現在使っている放射線のリスクはどういうふうにして求められているかというと、七ページの上の十三にあります。これは長瀧先生も説明があったかと思いますけれども、広島、長崎の追跡データですけれども、一応、これを眺めて、私は、五十ミリシーベルト以下では話をするのは難しいだろうなというふうに思っています。
それで、こういうデータをもとに、もっと下の方、一ミリシーベルト、二ミリシーベルトを考えるときに、その下のスライド十四のようないろいろなモデルが考えられている。ではどのモデルがいいのかというのは、いろいろなデータを参考にしながら、なおかつ理論、生物実験等を眺めながら考えてまいります。
それで、有名なデータですけれども、ナンバー十五、八ページですけれども、これは「オックスフォード小児ガン研究」といいまして、一九五〇年代に、子供、胎児ですね、妊婦のおなかにエックス線を浴びて、その後小児がんがふえたというデータであります。
その次ですけれども、十六番。これは非常に興味深いデータですけれども、私の友人であるスウェーデンのトンデルという疫学をやっている人ですけれども、スウェーデンの汚染地帯の汚染レベル別にがん発生を見ると、どうも汚染がふえるとがんもふえているぞというデータを出しています。これは統計的には有意です。では、これは果たして因果関係かどうなのかというので、彼自身と私はいまだにディスカッションをしています。それで、きょう児玉先生からお話を聞いたような、内部被曝によって体の中でセシウムの分布が異なるといったことでこれも説明できないかなという仮説を今考え始めているところです。
そういったデータの一つとして非常に興味深いのは、九ページですけれども、日本国の原子力産業労働者約二十万人を、大体平成の初めぐらいから今現在、二十年近く追跡調査されていますけれども、これはフィルムバッジ等で記録された被曝線量とそのがん死率を見ますと、どうも被曝線量がふえるとふえる傾向にあるぞというのが出ています。
それで、一応、これをやっている放射線影響協会の結論としては、明らかな証拠は見られなかったというふうに結論されておりますけれども、私自身は、スライド十八番にあるように、これはサジェスティブ、影響を示唆しているデータではないかと考えています。
次に、十九番、十ページですけれども、これはチェルノブイリの子供の甲状腺がん並びに広島、長崎のデータの年齢別の感受性ですけれども、やはり子供に対する影響は大人に比べて大きいんだというのは、如実に示していると思います。
最後、結論ですけれども、結局、放射線被曝の晩発的影響については、直線モデルが最も合理的で、批判に耐えられるタフな仮説であろうと私は思っています。ということは、被曝量が少なくてもそれなりに影響があるという考え方では、被曝の基準値というのはあくまで我慢量だというふうに解釈すべきだろうと思っています。どこまで我慢するのかということについては、社会的、個人的判断で決まる問題ですから、一般的な答えはないというふうに私は思っています。
ただ、参考としては、通常時の一般公衆の被曝基準値、これは年間一ミリシーベルトです。ICRPによれば、この数値というのは、一般公衆が被曝に対して気にせずに、神経質にならずに普通に生活できる量ということで決められています。そして、放射線作業従事者は、年間二十ミリシーベルトということになっています。この数字は、我々は放射線作業従事者ですけれども、放射線作業従事者が被曝によってこうむるマイナス面が、普通の産業の労働災害と同じレベルになるであろうというふうに、大ざっぱながら見積もってきた数字で、それなりに根拠のある数字だと思っています。
そして、今回の場合は、子供の感受性が大きく、そして子供は、大人に比べて将来、非常に長い人生を生きるということで、子供の被曝はなるべく少なくすべきであるということです。
どうもありがとうございました。(拍手)
○牧委員長 ありがとうございました。
以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。
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以下、?へつづく