2010年4月26日 日本共産党
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日本共産党の志位和夫委員長が26日に発表した政策「低すぎる所得補償では展望が開けない――価格保障と所得補償の充実、輸入自由化のストップで、農業の再生を」は次のとおりです。
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「このままでは農業も、農村も、地域経済もだめになってしまう」――昨年の総選挙で示された国民の審判は、こうした深刻な状況の転換を期待したものでした。民主党政権が誕生して7カ月、この国民の期待に応えているでしょうか。
民主党政権の戸別所得補償制度の四つの問題点
政権が目玉とする戸別所得補償は、当初の期待と異なり、農家や関係者の間に戸惑いや不信感を広げています。今年度、水田だけを先行させたモデル事業がスタートするなかで、生産の現場には大きな問題が噴き出しています。
低すぎる補償の水準、放置される米価の暴落―――一つは、所得補償の水準が低すぎ、米価の暴落を放置しているために、問題解決の展望が見えないことです。
所得補償の金額の計算根拠になっている「標準的な生産費」を1俵(60キロ)あたり1万3703円としていますが、この額は、農水省自身が公表している米の生産費1俵1万6497円より大幅に低く、補償がまったく不十分です。加えて、米価がどんどん下がった場合、追加補てんの基準となる「標準的な販売価格」も下がり、十分な補てんにならないという不安も出されています。しかも補償額が全国一律であるために、生産費の高い地方などでは、赤字の一部を補てんするにとどまり、稲作経営の困難を解消することができません。
しかも民主党政権は、米価を支えるための政府買い入れはしないと一貫して主張し、現実に進んでいる09年産米の暴落を放置してきました。買い入れ自体にはようやく応じたものの、買い入れ価格を低く抑えました。さらに豊作のさいの過剰米処理の仕組みを廃止するなど、米価の下落を促進する役割さえ果たしています。「農家が所得補償される分、安くさせてもらう」と、各地で米卸業者などによる新たな買いたたきも広がっています。暴落を野放しにしたまま、所得補償でカバーしようとすれば、補償に必要な予算が限りなく膨れ上がり、制度の破たんは必至です。
転作作物への補助の削減―――二つ目は、転作作物への補償を全国一律にしたうえで、米粉・エサ用米などを除く多くの作物で、その水準をこれまでより大幅に引き下げたことです。麦・大豆の集団転作にたいする補助金は、ばっさり削られ、そのために集落営農が崩壊の危機に立たされるケースが出ています。富山のチューリップなど地域の特産物振興の努力が、補助金カットでだめになるといった悲鳴が、各地で上がりました。政府が打ち出した「激変緩和策」によっても、補助金単価が前年を下回る地域や品目が多く、水田転作が後退する地域さえ生まれています。「自給率向上」という掛け声とはまったく逆行する事態です。これでは、政府が最近閣議決定した農政の「基本計画」で、10年後の食料自給率の目標を、45%から50%に引き上げるなどといっても、まったく説得力がありません。
輸入自由化と一体―――三つ目は、戸別所得補償が、輸入自由化推進と一体になっていることです。鳩山内閣は、日米FTA(自由貿易協定)、日豪EPA(経済連携協定)、WTO農業交渉などに「前向き」「積極的」で、「新成長戦略」では、米・豪を含む「アジア・太平洋FTA」の構築を目玉に掲げるなど、自由化推進で一貫しています。山田正彦農水副大臣は、「世界はそういう方向(自由化)に流れている。だから、畜産でも、畑作でも、セーフティネット、所得補償を急いで整備しなければ」(『金融ビジネス』Winter2010)と発言し、所得補償を自由化受け入れの条件づくりと明確に位置づけています。輸入を自由化して農産物価格がいっそう低落すれば、補償といっても穴の開いたバケツに水を注ぐようなもので、農業の壊滅的打撃は避けられません。
農業予算全体を削減し、必要な予算を切り刻む―――四つ目は、自公政権と同様、2010年度も農業予算全体の削減を続けたまま、所得補償の財源を確保しようとするために、農業共済、鳥獣害対策、耕作放棄地対策など必要な予算を切り刻んで、財源を捻出(ねんしゅつ)したことです。土地改良の予算も、乱暴な削減によって、本当に必要な工事にまで支障が出ています。来年度以降、所得補償制度を水田以外にも広げ、本格実施に踏み出すとしていますが、農業予算全体の削減を続けるなら、まったく実現の見通しがありません。
「こんなことで農業を続けられるのか」と、農家や関係者が不信感を募らせるのは当然です。農政の混迷は、農業つぶしをもたらしてきた政治の「異常」――輸入自由化を迫るアメリカのいいなりと、輸出大企業の利益が最優先で国内農業を切り捨てる財界のいいなり――をただす力が、鳩山政権にないからです。
農家が安心して、生産にはげめる施策こそ、農業再生の土台
日本共産党は2年前、「農業再生プラン」を発表しました。農政の混迷の現状をみたとき、「農業再生プラン」で掲げた「価格保障と所得補償の抜本的充実」、「輸入自由化をストップし、『食料主権』を保障する貿易ルールの確立」こそ、日本農業の再生の真の方向です。日本共産党は、「農業再生プラン」をひきつづき土台にしつつ、今日の状況を踏まえ、とくに次のような点を強調するものです。
(1)価格保障を中心に所得補償をくみ合わせる
農家経営の困難を打開する最大の柱は、「農業再生プラン」で強調したように、農産物の価格保障を中心に、所得補償を組み合わせ、生産コストをカバーする施策をしっかりと行うことです。価格保障は、農産物の価格(農家手取り価格を含む)を一定水準に維持する制度で、販売量が増えるにつれて収入が増え、農家の意欲と誇りを高めることができるため、農家経営を安定させ、生産を拡大するうえで、切実に求められている施策です。所得補償は、農産物の生産や販売量とかかわりなく、一定の基準で農家所得を補償する仕組みで、農業の多面的な機能の発揮、条件不利地での営農を補償する施策として、位置づけられるべきものです。日本共産党は、農産物の再生産を保障する仕組みとしては、価格保障を中心にすえつつ、所得補償を上乗せしてくみ合わせることが、もっとも合理的で実効ある仕組みとなると考えます。
当面、米の価格保障については、農水省調査の全国平均の米生産費(06年~08年では60キロあたり平均1万6500円)を基準として、その年の販売価格の差額を農家に補てんする「不足払い制度」を導入します。あわせて、水田のもつ洪水防止や水質浄化など国土や環境をまもる役割を評価して、10アールあたり1~2万円の所得補償を実施することを提案しています。これによって、農家は、1俵平均で1万8000円前後が保障されます。また、これらの実施にあたっては、全国一律ではなく、地方の条件を踏まえて行います。
戸別所得補償政策は、生産費と販売価格の差額の補てんという点で、「不足払い制度」と重なるところがありますが、販売量と切り離した面積単位の「所得補償」であるために、生産への意欲に結びつきません。民主党が価格保障を拒否し、所得補償にこだわるのは、生産刺激的な補助金の一律削減を義務づけるWTO農業協定に無批判的に従っているからです。しかし、欧米諸国では、WTOのもとでも、価格保障をしっかり維持し、所得補償も手厚く実施しています。食料の増産で自給率の向上が切実な課題となっている日本でこそ、価格保障を含めて世界で当たり前に行われている施策を実施します。
09年産米の暴落回避に30万トン以上を緊急に買い入れる――米の市場価格の安定に政府が責任を果たすことも必要です。米の生産調整に政府が一定の役割を果たすとともに、豊作や消費減などによる余剰米が発生した場合、政府買い入れを増やすことによって、需給調整をはかるべきです。当面、09年産米の暴落を回避するため、市場にだぶついている30万トン以上を適正な価格で緊急に買い入れるとともに、大手流通企業による買いたたきなどを規制するルールを確立します。
水田の総合的な利用に国が思い切った支援を行う――食料自給率の向上には、水田における麦・大豆・飼料作物などの増産をめざすのは当然ですが、農家が自主的に選択でき、安心して増産に取り組める条件を抜本的に整えることが前提です。需要面でも、増産に見合って輸入から国産への切り替えが不可欠です。当面、麦・大豆・飼料作物などの転作作物への助成金を10アールあたり平均5万円(現行3万5千円)に増額して、地域農業の実態をふまえて配分できるようにします。米粉・飼料用米については、同8万円を助成します。それら作物を原料として受け入れる地場の加工企業などへの支援を強め、安定した販路・需要先を確保します。
畑作、畜産、果樹、野菜にもそれぞれ価格保障を導入・拡充する――日本は米とともに地域の条件に応じて畑作、畜産、果樹、野菜など多様な農業が発展してきました。その経営困難を打開することは、地域経済の振興、豊かな食生活の維持に欠かせません。それらの実態を踏まえた価格保障(価格安定・支持制度)を導入・拡充し、農家経営が安定して持続できる条件を整えます。条件不利地域に対する所得補償については、恒久立法化し、対象を広げ、補償水準を拡充します。
(2)輸入自由化・拡大に反対し、「食料主権」を保障する貿易ルールをめざす
もう一つの柱は、輸入野放し・自由化拡大をやめ、関税など国境措置の維持・強化で「食料主権」を回復することです。輸入自由化をすすめては、あれこれの国内対策をとっても農業への打撃を防げないことは、これまでの経験であきらかです。農業に壊滅的な打撃を与える日豪EPAはただちに中止し、日米FTAはきっぱり断念する、WTO農業協定は根本から見直し、「食料主権」を保障する貿易ルールをめざすべきです。ミニマムアクセス米の「義務」的輸入は中止します。BSE対策がずさんなアメリカ産牛肉の輸入規制を緩和すべきではありません。
(3)新規就農者支援法の制定など担い手の確保・育成に国をあげて取り組む
農業の担い手の確保・育成に特別な力を注ぐことも必要です。大小多様な家族経営をできるだけ多く維持するとともに、地域農業を支えている集落営農や大規模農家の役割も重視し、支援を強めます。新規就農者支援の特別法を制定し、農業の新たな担い手の参入・定着に国や自治体、関係機関あげて取り組みます。担い手育成や地域農業の振興に農協や関係団体の役割は欠かせません。その自主性を尊重しつつ、本来の役割が果たせるよう、国や自治体も協力し、支援します。
(4)農業予算を1兆円増額すれば、自給率50%を実現できる
農業つぶし政治の傷が深いだけに、農業の再生や食料自給率の回復には、長期の見通しによる計画的な取り組みと関連予算の思い切った増額が不可欠です。現状の生産水準を前提として、農家が安心して生産に取り組める水準の価格保障・所得補償の実施には4千億円、食料自給率50%をめざした増産には、この4千億円を含めて約1兆円の追加予算が必要です。国の一般歳出に占める農林水産予算の割合は、10年前の7・1%から今年度の4・6%に低下しています。現在の国の予算規模を前提にしても、農水予算の割合を10年前の水準に戻すだけで、農業再生に必要な1兆円は確保できます。
農業再生に向けた広範な国民の共同で、農政を前に進めよう
わが国には、温暖多雨な自然条件、すぐれた農業技術の蓄積、世界有数の経済力、安全・安心を求める消費者の願いなど、農業を豊かに発展させる条件は十分あります。国民の大多数も、農山村の崩壊に胸をいため、地産地消や都市と農村の交流などさまざまな形での支援を広げています。いま必要なのは、こうした条件を全面的に生かす国の政治の実現です。
昨年の総選挙は、「農政を変えてほしい」という願いの実現に向けた第一歩でした。民主党政府が、その期待にこたえず、足踏み・後退を続けている今、国民の力で乗り越え、農政をさらに前に進めようではありませんか。日本共産党は、農業と農村を再生させる農政の実現に向けて、広範な国民の共同の発展を、心から呼びかけます。