衆議院憲法審査会の野党メンバーで10月23日、「あいちトリエンナーレ」補助金全額不交付問題について愛知県庁に現地調査に行きました。
大村秀章愛知県知事とも懇談しました。
参加したのは、
山花郁夫衆議院議員(立憲民主党憲法審査会長)、
源馬謙太郎衆議院議員(国民民主党憲法審査会事務局次長)、
私もとむら伸子(日本共産党で憲法審査会委員)です。山花議員の秘書さんもご一緒で、大変お世話になりました。
調査の趣旨を山花議員は、
あいちトリエンナーレへの補助金不交付について、文化庁は手続き上の問題だといっているが、結局、中身ではないか。私学助成でも中身の問題で、同じようなことが起こるかもしれない。今後の日本全体にもかかわる大問題。報道ベースだけでなく、実際に何が起きていたのかを調査するために訪問したと述べました。
なお、与党の憲法審査会委員にも一緒に調査を呼びかけられたそうですが、賛同が得られず、野党だけの調査となりました。
また、愛知県庁からクローズドと言われていたため、事前のお知らせ、マスコミ取材はできず、翌日の10月24日に国会内で記者会見を行いました。
記者会見には、山花議員と奥野総一郎衆議院議員(国民民主党)とともに参加しました。
愛知県知事や愛知県庁及びあいちトリエンナーレ実行委員会からの聞き取りは以下の概要は通りです。
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◆大村愛知県知事は、後半参加し、以下のような内容のお話がありました。
➡2019年8月1日~10月14日の75日間のあいちトリエンナーレ、7月31日の内覧会を入れると4日で「表現の不自由展・その後」は中止になった。
➡「表現の不自由展・その後」は、106企画の1企画。
国際現代美術展では、国内外の66組のアーティスト・団体の作品を展示。
➡準備はバタバタで、キュレーター(学芸員・専門的な知識を持ち、展覧会を企画する)によるキュレーションが足りなかった。
➡電凸というのを初めて知った。ネットで共有し、いっせいに攻撃。京都アニメーションのこともあり、ガソリン携行缶というような脅迫があった。
➡検証委員会が9月25日、安全、セキュリティ面の準備が整えば再開という中間報告を出し、関係者が協議して、10月8日から残り一週間で再開にこぎつけた。様々な意見もあったが、14人の抗議していた作家も復帰し、全面的に再開した。圧力に屈したということになってはいけないと何とか再開できた。67万人の来場者。
➡アートはグローバルになっている。国内外の66組のアーティスト・団体のうち33組は海外。海外の作家は、圧力に屈し、中止したことを「検閲」だととらえる。とくに韓国の作家は、平和の少女像の展示が中止されたのに参加できないと展示を辞退。韓国の作家は大作も多かった。全面再開できて、よかった。現代アートの海外作家が、圧力に屈した、日本はこわい国、芸術祭に出せないとなれば大変。今後、現代アートをどうしていくのか考えていかなければならない。
➡展示の現場は、平生を保ち、トラブルはなかった。今後も万全を期したいが、電凸のような新しい形、ネットでのソフトテロ対応をどうするのか。気にくわなかったら、攻撃すればつぶせる、という時代にどう対処していくのか。現代アートは、政治的なメッセージと切り離せない。気にくわないからと言ったらできない。表現の自由、芸術の自由をどう守ることができるのか。
➡今後、安全、安心で芸術祭をやり切ることが課題。
➡9月25日、県検証委員会の中間報告が出された翌日9月26日、全額不交付決定。手続き上の不備があるというが、愛知県は不備はないと考える。補助金適正化法の不服申し立てをやっていくのかなと考え、今、準備している(愛知県は10月24日、文化庁にたいし補助金適正化法に基づき不服を申し出た)。今度の土曜日が期限なので、これから県議会に説明していくところ。不服申し立てをやって、裁判ということになるか?行政的に粛々とやっていく。
➡今回、準備不足もあったので、県民の皆さんにご心配をおかけしたことを心からおわびをした。今回のことを国会の議論でも生かしてほしい。
◆愛知県当局、あいちトリエンナーレ実行委員会が説明(検証委員会「中間報告」に基づいて)
➡大村知事が話したような「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」の説明があった。
「情の時代」というコンセプトには、分断、差別を解決する、情に訴えかけるのが、
アートではないかという意味が込められている。
➡「表現の不自由展・その後」はじめ、すべて完全なかたちで閉幕した。67万人過去最高。
➡9月25日「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」(第3回)の「中間報告」に基づいて説明。「検証委員会」は今後、「検討委員会」となる。今後のトリエンナーレを議論していく。「中間報告」なので、早いうちに(最終的な?)報告を出したいと考えている。
➡あいちトリエンナーレ全体に占める「表現の不自由展・その後」の事業費は、420万円/総事業費12億4111万6000円の0.3%。国際現代美術展全体(20023㎡)の展示面積の0.83%。
➡(「表現の不自由展・その後」は公金ではないところから出すのか?)
県予算、チケット、個人・企業からの寄付などはあり、全体としてみるが、「表現の不自由展・その後」は民間からの協賛金を充当する予定。
➡(あいちトリエンナーレにたいし、様々な企業が協賛、協力などしているが、今回の問題で、辞退などあったか?)ご意見はあったが、寄付をやめるなどはなかった。
➡(「会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにも関わらず、文化庁に申告しなかった」と文化庁は言っているが、事実はどうだったのか?)
・4月11日、芸術監督から、キュレータチームに「表現の不自由展・その後」の出品候補リスト共有。キュレーター会議において、大浦氏の作品及び「平和の少女像」の展示について共有。
・6月12日、あいトリ実行委員会事務局から「表現の不自由展・その後」全体の展示案を会長(知事)へ提示。
・6月20日、会長(知事)が芸術監督と面談し、「少女像は何とかならないのか、やめてくれないか」、「少女像は、実物ではなく、パネルにならないのか」「写真撮影は禁止にできないか」と懸念を伝える。
➡️警備について
・5月8日、不自由展実行委員会、芸術監督、事務局で顔合わせを行い、事務局から懸念事項を伝え、不自由展実行委員会からは、2015年の不自由展開催時の警備に関する話を聞く。
・5月13日、不自由展実行委員会の岡本有佳氏から、改めて事務局のトリエンナーレ推進室長も交え警備対策について打ち合わせしたいと提案を受ける。
・5月22日、事務局が管轄警察署へ相談に行き、打ち合わせの結果を芸術監督と共有する。
・5月25日ごろ、警察のアドバイスを受け、展示会場に警備員を配置する具体的検討を開始する。
➡書くところがないのに、「会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにも関わらず、文化庁に申告しなかった」と後から言われても・・・。
➡(愛知県と文化庁の接触について、8月4日と8月18日、8月19日があったと国会質問でも明らかになったが、文化庁の対応はどのようなものだったのか?)
・8月4日は、表現の不自由展・その後の準備はいつごろからしてきたのかや、電話、メール、FAX抗議の件数などを聞かれた。8月18日、19日も抗議の件数など聞かれ、8月16日に検証委員会があったので、検証委員会についても聞かれた。しかし、なぜ会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにも関わらず、文化庁に申告しなかったのか、などは聞かれなかった。
➡(7月31日のセレモニーに文化庁が来賓として呼ばれていたのに、突然、キャンセルしたとの報道があるが、誰が参加して、何をする予定だったのか。理由はなんだったのか?)
・三木参事官が来て祝辞を述べる予定だったが、当日、「都合により行けなくなった」とキャンセル。祝電披露もやめてほしいと言われた。
内覧会の朝に平和の少女像についての記事が載り(東京新聞には7月31日付?)、抗議が始まった。
➡8月1日~8月31日までの抗議は、10379件。
電話3936件、メール6050件、FAX393件。
とりわけ電凸で、他の部署の電話も受けることができなくなってしまい県庁機能が麻痺。1人30~40分話した。職員名指しして脅迫的な発言もあった。
その後、県庁に電話するとトリエンナーレとその他と選び、トリエンナーレ関係は10分で録音ありと対応した。
➡脅迫の主な内容
①ガソリン携行缶を持って館へおじゃまします。
↑8月6日に被害届を提出し、8月7日に容疑者が逮捕。
②愛知芸術文化センターへの放火予告のほか、愛知県内の小中学校、高校、幼稚園へのガソリン散布して着火する。
③愛知県庁等にサリンとガソリンをまき散らす。
④高性能な爆弾を仕掛けた。
⑤愛知県職員らを射殺する。
➡(8月2日にテロ予告FAXが来たが、なぜ被害届が8月6日なのか?また、2日の時点でテロに屈しないというメッセージは県警からも発せられなかったがなぜか?)
5月からずっと警察とは連携してやってきて、2日に情報は県警に伝えていた。県警から被害届と言われたので出した。
➡海外の国際芸術祭では、社会問題や政治に近接するテーマも数多い。反体制からの表現が多く、体制側だけの作品を選ぶことは逆に偏ってしまうことになる。
➡(「中間報告」p30に「政治的テーマだから『県立や市立の施設を会場としたい』という芸術監督と不自由展実行委員会のこだわりは。公立施設が想定する使用目的から逸脱している。トリエンナーレの性格に照らせば疑義がある。」とあるが、これはどういうことか。)
公立美術館では、あるいは公金を使って政治性のある展示は行うべきではないのではないか、という点については、アートの専門家がアートの観点から決定した内容であれば、政治的な色彩があったとしても、公立美術館で、あるいは公金を使って行うことは認められる(キュレーションの自律性の尊重)。これは国公立大学の講義で、学問的な観点からである限り、政府の批判をすることに全く問題がないことと同じである。
➡「表現の不自由展・その後」全作品23作品のうち、天皇制や戦前の日本に関するものが3割、日韓関係に関するものが約2割を占めるなど、作品の内容は政治性が帯びているものは多い。しかし、現実の日本の政治や政党を直接的に批判、あるいは、礼讃するものはない。
➡大浦氏の作品は、自分の版画作品を焼いている。天皇を批判するものではない。
➡河村氏や菅官房長官などの発言については、中止の判断に直接的影響はなかったが、テレビやメディア等を通じた同氏らの対外的発言によって、電凸等が激化した可能性がある。まとめの部分でも「名古屋市長や作品を見ていない県外政治家の抗議が報道され、抗議が拡大」と書かれている。
➡海外アーティストの多くは、本国で弾圧、検閲を受けている。今回の中止は、電凸攻撃等の被害など安全上の理由により中止したものではあるが、海外アーティスト達は、理由に関わらず、広義の「検閲」と解釈している。テロまがいの脅迫にたいし自主的に中止したことは意図しない「検閲」だととらえる。
➡表現の自由は絶対なのか。「公共の福祉」に反する表現は許されないのではないか。表現の自由が重要だといっても、絶対的なものではなく、制限が許される場合もある。憲法も「公共の福祉」に反する場合には人権を制限できる事が定められている。一定の範囲の人々が不快に感じるという理由だけでは表現の自由を制限することはできない。法令で規制されて初めて、実際に違法になる。
➡あいちトリエンナーレは過去3回の成功実績の上に、今回は政治・ジャーナリズムとアートの融合という先端領域に挑戦。芸術監督にジャーナリストの津田大介氏を選出した。これまでもキュレーター以外からの起用で成功しており、人選事態に問題はなかったと思われる。
➡不自由展のみならず、全体に「政治」という扱いにくいテーマを扱った先進性は高く評価。
➡過去に禁止となった作品を手掛かりに「表現の自由」や世の中の息苦しさについて考えるという着眼は今回のあいちトリエンナーレの趣旨に沿ったものであり、妥当だったと言える。
➡主催者の趣旨を効果的、適切に伝えるものだったと言い難く、キュレーションに多くの欠陥があった。
➡芸術監督の不適切な判断や行動に起因する今回のようなリスクを回避・軽減する仕組み(ガバナンス)があいちトリエンナーレ実行委員会及び県庁に用意されていなかった。
芸術監督の上で会長(知事)は全体を掌握する立場にあるが、政治家であるため、日本国憲法第21条の表現の自由及び検閲禁止の規定に縛られ、展示内容については芸術監督にすべてを委ねざるを得ない立場にあった。
➡「中間報告」では、「条件が整い次第、すみやかに再開すべき」と結論づけた。警備や電凸対応を強化し、10月8日再開。人数制限をして、しっかり説明をして、しっかり観てもらう。大浦氏の作品も20分全部みてもらう。写真は撮ってもいいが、SNSに掲載しないように誓約書を書いてもらった。
➡今後は、あいちトリエンナーレの運営体制を抜本的に見直す方向。アーツカウンシル(行政と距離を置いた専門家らによる第三者機関)を設け、専門的な見地から議論していく。