東日本大震災――学校教育についての申し入れ
2011年8月2日 日本共産党国会議員団
東日本大地震から5ヵ月近くが経過しましたが、被災地では教育上の解決すべき問題が今なお数多く残されています。その何よりの理由は、教育のほとんどが地方自治体の業務となっているにもかかわらず、未曾有の災害によって自治体の財政が困窮し、復興の事業を行ないたくとも行なえないことです。また被害の実態をみれば、現行制度では対応しきれないものが多々あり、それも復興の足かせとなっています。
現在進行中の福島第一原発事故による災害への政府の対応はきわめて不十分で、教育へも深刻な被害がおき、被災地を中心に子どもの被曝への心配がましています。
子どもは復興の希望です。その子どもたちの成長や安全が保障されていない現状を放置してはなりません。政府に子どもと教育に関して迅速な措置をとることを求め、以下の提言をおこないます。
(1)地元の要望にもとづく学校再建を全額国の負担ですすめる
大規模な被害をうけた学校の再建はこれからです。現地の要望は、安全な高台に移して安心な学校を建てたい、いまの校地に盛土をして校舎をより高い位置に建て直したいなど様々です。ところが「原形復旧」を原則とする現行法では国の補助金が支出されない場合があり、現地は困っています。未曾有の津波で地域全体が大きく破壊された中での復旧であり、地元の要望にもとづく学校再建を全額国の負担ですすめることを求めます。
●学校再建等は「原形復旧」などの制約をとりはらい、仮設校舎を含め現地が必要とする全ての工事を全額国の負担でおこなうこと
●私立学校や専修学校・各種学校の再建や修繕も公立学校と同様の措置をとること
●図書館など社会教育施設の復旧・復興についても公立学校と同様の措置をとること
●全国の学校の耐震化100%を3ヵ年で、東日本大震災をふまえた新たな耐震・防災機能の強化を5ヵ年でおこなうこと
(2)給食再開、粉塵対策、校庭確保など様々な問題に対応できる「教育復興特別交付金」を予算化する
学校給食がいまだに菓子パンとわずかな副食、飲み物という学校が残されています。給食センターの再建までの長い期間、こうした状態を続けるわけにはいきません。特別な手立てをとり、夏休み明けには全ての学校で本格的な給食ができるように保障すべきです。
他にも、がれきや汚泥による粉塵や悪臭・蝿や蚊の大量発生への対策、校庭に仮設住宅が立ったことに伴う小規模運動場整備などの校庭確保、震災や避難所運営などで散逸した備品の補充など、様々な問題がおきていますが、財政力の弱い市町村では対応しきれません。震災に起因する様々な問題を機敏に解決できるよう、使途を限定しない「教育復興特別交付金」を市町村に支給することを提案します。
(3)「給付型奨学金」の創設、「スクールソーシャルワーカー」の配置などにより被災者の教育費や生活の心配をなくす
今回の震災により保護者の生活基盤が破壊されたことは、進学の断念、生活の困窮によるネグレクトなど子どもに深刻な影響をあたえつつあります。復興の大原則として生活基盤復活をつよく求めるとともに、教育の面から子どもの教育費や生活の心配をなくす手立てをつくすことを求めます。
●被災者への返済不要の「給付型奨学金」(程度に応じて月数万円から10万円)を創設すること
●被災者への私立高校、専修学校・各種学校、大学等の授業料減免を施設整備費を含めるなど抜本的に拡充すること
●国の「被災児童生徒就学援助事業」は不十分な周知や煩雑な手続きを改善し、被災した事実の確認でいつでも支給できるようにすること
●被災地の給食費、教材費等を復興まで不徴収とするための国庫補助をおこなうこと
●通学路の寸断等にともなう通学費や臨時バス運行の経費を負担するとともに、交通手段がなく校内で宿泊している高校生のために無償の仮宿舎を保障すること
●保護者の生活を支援するスクールソーシャルワーカーを中学校区に最低一名以上配置すること
(4)被災地の教職員定数をふやし、少人数学級などを可能にする
子どもの心のケア、生活の心配、学習の遅れなど、被災地の学校は多くの課題がある一方、教職員自身も被災し困難をかかえています。子どもたちをていねいに育てられるよう、教職員定数の増員を求めます。
●被災県の教職員定数をふやし、「35人学級」の前倒し実施など手厚い教育条件を可能にすること
●子どもの心のケアのために養護教諭の複数配置、スクールカウンセラーの増員をすすめること
●災害後の教職員の人事異動について、被災した子どもと当該教職員との人間的関係を優先しておこなうことを国としても重視すること。 被災した教職員のケアに配慮すること
●震災で職員を多く失った市町村教育委員会に、教育委員会職員経験者等を配置できるような財政措置をとること
(5)障害のある子どもの教育を保障する
障害のある子どもは震災によって多くの困難を余儀なくされています。その発達を保障するために教育条件の復旧が急がれます。道路の寸断などで通学が困難になった子どものために特別支援学校のスクールバスの増車や寄宿舎、障害児施設の柔軟な利用を保障すべきです。また、特別支援学級を維持し必要な学校での新規開設ができるような定数拡充を求めます。
(6)里親制度を拡充し「震災孤児」への支援を強める
震災によって親を失い、孤児となった子どもは200人をこえました。手厚くケアされなければならない子どもたちです。ところが、そのための有力な制度である里親制度が十分に整備されていません。震災を契機に制度を拡充することを求めます。
●親族里親にも「里親手当」を支給するようにすること
●教育費手当の単価を実態に見合うものに増額し、高校生学習塾費、専修学校・各種学校教育費を新設すること
●里親会などへの公的支援をおこない、里親制度のPRや支え合いを促進すること
●被災県の児童相談所職員を増員し、成人するまでフォローできるようにすること
●未成年後見人を公費で保障すること
●18歳以上で親を失った青年に支援をおこなう専門職員を配置すること
(7)青年の就職への支援をすすめる
内定取り消しや入職時期の繰り下げが被災地の卒業生を襲い、現地のハローワーク職員の努力にもかかわらず、その実態はつかみきれていません。雇用創出に有効な手立てをとり、就職を支えることを求めます。
●内定取り消しの実態を把握し、悪質なものは公表し是正指導すること
●大企業に雇用の社会的責任を求めるととに、震災採用枠を設ける指導や被災地の卒業生等の採用への財政支援、公務労働の拡大など雇用をふやす対策をつよめること
●被災地等のハローワーク職員定数を増やし、就職活動への支援を手厚くすること
●被災者への公的職業訓練、「基金訓練」のための施設・設備等へ国の補助をおこなうこと
(8)線量調査、除染など被曝低減対策、健康調査を抜本的に強める
原発事故による被曝から健康を守る原則は、「これ以下なら絶対に大丈夫という値はない」という考え方(「しきい値なし」)にたち、被曝量を可能な限り下げることです。特に子どもは大人より感受性が高いわけですから、被曝量をより低く抑える必要があります。
ところが国は、子どもの被曝限度を「事故収束後の復旧期」の最大値である「年間20ミリシーベルト」とし、当初は被曝量を下げるための校庭の表土削除も「必要ない」としました。政府の対応に内閣官房参与は抗議の辞任をし、被災地も受け入れませんでした。少なくない自治体が政府基準より厳しい独自の基準を設定し対策を強めています。その後、文科省は表土削除を認めましたが、「年間20ミリシーベルト」という子どもの被曝限度は変えていません。しかも保護者等の批判をかわすために、子どもの被曝を年間1ミリシーベルト以下にすると宣伝しましたが、それは学校内での被曝のみで、かつ被曝が集中した初期の被曝量を除いた数値にすぎません。こうした対応をあらため、科学的で正直な対応を求めます。
●子どもの被曝限度「年間20ミリシーベルト」を撤回すること
●福島県および周辺地域できめ細かい徹底した線量調査をおこない、子どもの被曝低減のきめ細かい措置をとること。必要に応じて福島県以外の教育施設等にも線量計を配備すること
●線量が高い場所から、学校だけでなく、公園、通学路など子どもが立ち入る場所の除染をすすめること。除染のための、すべての専門家・技術者の力を結集する体制や制度を確立すること。空気清浄機能付エアコンの設置への補助をおこなうこと
●子どもの健康調査を、体内被曝をふくめておこない、健康管理に万全を期すこと。専門家が保護者の疑問にこたえる場を設けること
●線量の高い地域でのプール再開にむけた安全対策を検討するとともに、自校のプールが使用できないすべての子どもに代替のプールを保障する措置をとること
●学校給食の安全に万全を期すこと
●福島県等で夏休み中の学童保育が、被ばく量のより少ない場所で安心しておこなえるよう支援すること
●線量の高い地域の子ども・保護者が、無償で各地の「林間学校」等公的施設で休暇をとれるような措置を自治体と協力してすすめること
●線量の低い地域でも線量の十分な計測をおこなうとともに、専門家が保護者の疑問にこたえる場をもうけること
(9)原発事故による避難などの独自の困難に対応した手厚い条件整備をおこなう
原発事故により福島県では多数の子どもが他県に避難し、また、避難しなくとも被曝を心配しながら教育活動を続けなければならないなど、きわめて困難な状態が続いています。ところが国の教員配置に関する措置は、震災前の教職員数の維持にとどまっています。そのため福島では来年度の教員採用が中止においこまれ、講師の間では雇用継続への心配もひろがっています。困難な状況に対応した手厚い条件整備を求めます。
●福島県の教職員定数を増員し、いっそうの少人数学級を可能とするとともに、教職員採用を復活できるようにすること
●避難自治体の教職員が、散り散りになった子どもや保護者との連絡相談、学校再開の準備にじゅうぶん専念できるようにすること。そのためにも、生徒児童数の減により教職員定数が自動的に減ってしまう現行法を避難自治体は適用外とすること
●避難した子どもの通学のためのスクールバスの確保・運営に財政支援をおこなうこと
●使用できなくなった公立高校は、他の複数の学校に間借りして教育活動を継続しているが、体育館で授業などの劣悪な教育環境、遠距離通学・通勤、実習施設の不足など深刻な問題をかかえており、改善のための財政支援をおこなうこと
●自ら被災し、遠距離通勤や家族バラバラの状況におかれている教職員をケアし必要な休暇等を保障すること
(10)原発推進教育を中止する
国は2002年から、原子力発電所立地を目的とするエネルギー特別会計によって原発推進教育をすすめてきました。国民的に意見がわかれている原発推進という国策について一方的な内容を子どもに教え込むことは、基本的な真理・真実を子どもに教えるべき公教育では許されません。すでに「原発安全神話」が書かれた副教材はわが党の追及で「見直し」となりましたが、その他の原発推進教育も中止することを求めます。