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議事録
○もとむら伸子
日本共産党の本村伸子でございます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
二〇二四年九月二十六日、静岡地方裁判所で袴田巌さん無罪の判決が出されました。一九六六年の事件から五十八年間の深刻な人権侵害に対し、法務大臣はまずどのように受け止めておられるか、お伺いをしたいと思います。
○鈴木国務大臣
今御指摘の事件、袴田さんが被告人として起訴された強盗殺人等の事案であります。昭和五十五年十二月に死刑判決が確定をいたしましたが、令和五年三月二十日、再審開始決定が確定し、本年九月の二十六日に再審無罪判決が言い渡され、本年の十月九日に無罪判決が確定をしたものと承知をしております。
大変申し訳ありませんが、個別の事件における裁判所の判断に関する事柄について法務大臣として所感を述べるということについては差し控えさせていただきたいと思いますが、その上で申し上げれば、検察当局においては、組織の見解として、袴田さんに対し、相当の長期間にわたり法的地位が不安定な状況となり、その間、とても言葉にはできないようなつらいお心持ちで日々を過ごされたことにつき、刑事司法の一翼を担う検察として大変申し訳なく思う旨謝罪をするとともに、今回の事件について、袴田さんを犯人と申し上げるつもりはなく、犯人視することもない旨を申し上げたものと承知をしております。
私といたしましては、袴田さんが結果として相当の長期間にわたりその法的地位が不安定な状況に置かれてしまうこととなったことについて、申し訳なく思っているところでございます。
○もとむら伸子
今大臣がおっしゃられたのは、検事総長の談話と重なる部分がありますけれども、それについては後で申し上げたいというふうに思い
ます。
もしも、袴田巌さんや姉の秀子さんが、警察、検察、裁判所が自分の声を聞いてくれないという中で、無実であることを訴えることを諦めてしまっていたら、無実の袴田さんを死刑にする危険性がありました。生きていて無実を訴えてくださって、無実を訴え続けてくださって本当によかったというふうに心から思っております。
無実の袴田さんを死刑にする危険性があったということに関し、どのように受け止めておられるか、その点も伺いたいと思います。
○鈴木国務大臣
まず、個別の刑の執行の判断に関わる事柄について、法務大臣として所感ということを申し述べることは差し控えさせていただきたいと思います。
その上で、今御指摘の死刑ということでありますけれども、人の生命を絶つ極めて重大な刑罰であります。そうした中で、袴田さん、結果として相当の長期間にわたりその法的地位が不安定な状況に置かれてしまったということ、この点、誠に申し訳ないというふうに思っているということでございます。
○もとむら伸子
袴田さんが無罪になったということで、人権の回復や名誉の回復はまだできていないというふうに思っております。警察、検察、裁判官、そして政府、そして国会、この放置してきた問題が問われているというふうに思っております。
死刑が執行されていたら本当に取り返しのつかないことになっておりました。死刑というのは、そうした冤罪に関しても大変大きな問題があるというふうに思っております。
この重要な証拠が、事件から四十四年後、四十七年後、四十八年後、四十九年後に重要な証拠が次々と出てまいりました。警察、検察、長期にわたって重要な証拠を隠していたというふうに言わざるを得ません。
資料の六ページを見ていただきたいんですけれども、袴田さんの冤罪事件の第二次再審請求審からの経過を笹森学弁護士がまとめてくださった資料です。
事件は一九六六年に起きたわけですけれども、多くの証拠が開示されたのは第二次再審請求審からでした。
二〇〇八年四月二十五日、静岡地裁に袴田さん事件の第二次再審請求が行われました。そして二〇〇九年の三月二日、秀子さんが保佐人に選任をされ、第二次再審請求の請求人要件が整って、二〇一〇年五月二十八日、第一回の三者協議の際に、やっと裁判所が、できるだけ証拠開示をということを勧告いたしました。そして二〇一〇年九月十三日、三者協議で、検察側は弁護側が求めていた証拠の一部を開示いたしました、二十八点。
そして二〇一三年七月五日、静岡地裁は、静岡地検に証拠を開示するよう、また勧告をいたしました。そして二〇一三年七月二十六日、静岡地方検察庁は百三十点の証拠を開示いたしました。そして二〇一三年九月十三日、静岡地裁、五点の衣類について証拠の開示を地検に勧告をいたしました。しかし、このとき、静岡地検は、存在しないと開示を拒否いたしました。二〇一四年三月二十七日、静岡地裁、再審開始と死刑及び拘置の執行停止決定が、二〇一四年になってやっと再審開始の決定が行われました。
そして二〇一四年三月二十八日、東京高裁は、拘置の執行停止の取消しの検察官の抗告を棄却いたしました。二〇一四年九月十日、東京高検が、静岡地裁での再審請求審で存在しないとしていた五点の衣類が、やっとこの証拠が、発見直後のカラー写真のネガの約九十三枚が開示をされた。その後、二〇一五年一月三十日、東京高検、昨年静岡県警で見つかったとされる袴田巌さんの取調べ録音テープ、オープンリール二十三巻、書証二十八点を開示いたしました。開示された証拠は、地裁分百三十プラスアルファということで、含めて六百点に及んでおります。
このように、重要な証拠、事件から四十四年後、四十七年後、四十八年後、四十九年後に次々と重要な証拠が出てまいりましたけれども、証拠開示になぜこれほどまでに時間がかかったと考えているのか、これは法務大臣にお願いしたいと思います。
○鈴木国務大臣
今お尋ねの点、個別事件における検察当局の訴訟活動の内容に関わる事柄ということで、また、法務大臣として所見を述べるということについては差し控えさせていただきたいと思います。
その上で、あくまで一般論ということで申し上げますけれども、再審請求審、これは通常の公判手続とは異なっておって、検察官が犯罪事実の立証責任を負うものではない上に、当事者主義に基づく手続ではなく、裁判所が職権により事実の取調べをするものであるために、一般的な証拠開示のルール、これは適用されないものと承知をしております。また、再審請求審においては、請求人側から提出をされた証拠が、確定判決が明らかに誤りであることを認めるべき新たな証拠に当たるかなどの再審開始事由の存否が判断の対象となるということでございます。
それを前提に、検察当局は、証拠開示の判断に当たっては、裁判所が再審開始事由の存否を判断するために必要と認められるか否か、そして、請求人側から開示を求める特定の証拠につき必要性と関連性が十分に主張されたか否か、そして、開示した場合における関係者の名誉やプライバシーの保護、あるいは、将来のものということも含むことになりますけれども、今後の捜査、公判に対する影響等を勘案しつつ、裁判所の意向等も踏まえ、誠実かつ適切に対応するものと承知をしております。
今回、再審請求手続が長期間に及んだということ、今、最高検において所要の検証を進めているところと承知をしておりますので、検察当局による本判決に対する対応、これは法務大臣としても見守っていきたいと思っております。
○もとむら伸子
今の再審法では、やはり人権侵害を引き起こすことは明らかです。最高検の中で検証するとおっしゃっておりますけれども、その検察庁が信用ならないというわけでございます。
それが、資料の一、二を見ていただきたいんですけれども、袴田さんの無罪判決後、十月八日、検事総長が控訴しない旨の談話を出しました。まず、こうした談話は異例だと思いますけれども、見解を伺います。また、この談話は検事総長個人で出したものなのか、組織的に出したものなのか、確認をさせていただきたいと思います。
○森本政府参考人
お尋ねの検事総長談話について、一般に確立した定義や様式があるものではございませんが、過去にも検事総長による談話は出された例はあるというふうに承知しております。
また、本件の検事総長談話の内容は、検察当局において組織的に決定した内容ということでございます。
○もとむら伸子
この総長談話は組織的に作られたものなのだと。組織として異常な人権侵害の談話を出したと私は考えております。
この十月八日の検事総長談話のところを見ていただきますと、二つ目の資料になるというふうに思いますけれども、二つ目の資料の「控訴の要否」の部分ですね。「本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます。」というふうに書かれています。
これは、無罪と判決をされた袴田さんを犯人視するものであり、深刻な人権侵害と考えますが、大臣、いかがでしょうか。
○鈴木国務大臣
検察当局が談話を発表したこと、その内容等の本判決への対応に関する事柄については、個別事件における検察当局の活動に関わるものでありますので、法務大臣としてということでは、所見を述べることは差し控えさせていただきたいと思います。
その上でということになりますけれども、検察当局におきましては、今回の談話は、不控訴という判断を行った理由そして過程を説明するために発表したものでありまして、そのために必要な範囲で判決内容の一部に言及をしたものであると承知をしております。
そして、検察当局においては、この総長談話発表当初から、無罪判決を受け入れ、これを確定させる以上、今後、袴田さんが本件の犯人であるなどと申し上げるつもりはなく、犯人視することもない旨を対外的に述べていると私としては承知をしております。
○もとむら伸子
資料の一を見ていただきたいんですけれども、検事総長の談話に対する弁護団の声明がございます。
その中に、検事総長の談話の要旨は、「これは控訴はやめておくが、巌さんを冤罪と考えてはいないということであり、到底許し難いものである。」というふうに書かれております。また、その下の方ですけれども、「要するに、検事総長がいまでも袴田さんを犯人と考えていると公言したに等しい。これは、法の番人たるべき検察庁の最高責任者である検事総長が、無罪判決を受けた巌さんを犯人視することであり、名誉毀損にもなりかねない由々しき問題と言わなければならない。」というふうに指摘しております。
このほかにも検事総長の談話の中で、「しかしながら、再審請求審における司法判断が区々になったことなどにより、袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました。」という言葉がありますけれども、これも上から目線だと私は感じました。
深刻な人権侵害を引き起こしたという反省の言葉がないのではないですか、この談話には。大臣、いかがでしょうか。
○鈴木国務大臣
繰り返しになりますけれども、検事当局が談話を発表したこと、そして、その内容等の本判決への対応に関する事柄については、個別事件における検察当局の活動に関わるものでありますので、法務大臣として、その所見を申し述べることについては差し控えさせていただきたいと思っております。
その上で、検察当局で、総長談話発表当初から、先ほど申し上げましたように、無罪判決を受け入れ、これを確定させる以上、今後、袴田さんが本件の犯人であるなどと申し上げることはない旨、対外的に申し述べておりまして、そして、本年十一月二十七日には静岡地方検察庁検事正が袴田さんの御自宅に訪問をいたしまして、袴田さんに対して直接、相当の長期間にわたり法的地位が不安定な状況となり、その間、とても言葉にはできないようなつらいお心持ちで日々を過ごされたことにつき、刑事司法の一翼を担う検察として大変申し訳なく思う旨を謝罪をしているところでございます。そして、今回の事件について、袴田さんを犯人と申し上げるつもりはなく、犯人視することもない旨申し上げたと承知をしております。
今回、上から目線ではないかというお話でございますけれども、こういった形で対応させていただいているということを申し述べさせていただきたいと思います。
○もとむら伸子
袴田さんの弁護をされてきた弁護団の皆さんが、これは無罪判決を受けた巌さんを犯人視することであり、名誉毀損にもなりかねないゆゆしき問題だ、到底許し難いというふうに言われております。これは、そう受け止める側が悪いのでしょうか。談話を発した側が問題があるんじゃないですか。
○森本政府参考人
事実関係について補足して説明させていただきます。
まず、検事総長談話が発表されました。その後、弁護団の御指摘をいただいて、その後に、大臣からも言及がありました、静岡地検の検事正は、袴田巌さん、それから秀子さんのところに謝罪に赴いて、その席で、もし誤解があるといけませんので、決して犯人視するものではありませんということを申し述べた、そういう経緯であったというふうに承知しております。
○もとむら伸子
では、この検事総長の談話は人権侵害であるということをお認めになるということですね。
○森本政府参考人
検事総長の談話につきましては、先ほど大臣からも言及がありましたが、不控訴に至る判断、それから過程を説明する中で、判決理由の一部について言及したものであるというふうに承知しております。
談話の当時から、犯人視するつもりはない、そういうことを申し上げるつもりはないということは、談話を発表した当初から検察当局としての考えに変わりはございません。
○もとむら伸子
でも、これはホームページにずっと載っているわけですよ。名誉毀損にもなりかねないゆゆしき問題だと言われているのに、ホームページに載り続けているわけですよ。それ自体が私は人権侵害だというふうに思っております。
この検事総長の談話は深刻な人権侵害であり、これ自体を謝罪し、そして撤回するべきだというふうに考えますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○鈴木国務大臣
重ねてになりますが、検察当局が談話を発表したということ、そして内容、これは本判決への対応に関する事柄ということであります。個別事件における検察活動、検察当局の活動に関わるものということで、法務大臣としてそのことについてということで申し上げることはなかなか困難だということは御理解をいただきたいと思います。
今当局からも申し上げましたけれども、今回、この談話については、不控訴という判断を行った理由や過程を説明するために発表したもので、そのために判決内容の一部に言及をした、必要な範囲でということでございますので、その点、御理解をいただきたいと思います。
○もとむら伸子
この談話に関しましては、弁護団の皆さんが、反省がないじゃないかということを指摘をしているわけでございます。その反省のない検察庁がこの袴田さんの事件を検証するというのは、期待できるわけがないということも指摘をされているわけです。
この弁護団の皆さんの声明の中では、巌さんに対する非人道的な取調べや五点の衣類の捏造について反省すらないもので、何ら謝罪になっていない、そして、違法な取調べが行われ、五点の衣類等の捏造がされたこと、さらには、死刑再審事件でありながら、重要な証拠が隠されていたこと等を深刻に受け止めなければならない、その上で、こうした重要な冤罪を生み出してしまい、その誤りを改めることに五十八年もの年月を要した原因を明らかにし、二度と繰り返さないようにするため、捜査、公判手続全般にわたって厳正かつ真摯な検証を行うべきというふうに書かれております。
そこでお伺いしますけれども、この袴田さんの事件、五十八年間をやはり第三者が検証するべきだというふうに思います。もう一つ、袴田さんの第一次再審請求審、これは二十七年間かかっています。証拠開示も一切認められませんでした。この第一次再審請求審の審理状況の第三者の検証、このことも求めたいというふうに思いますけれども、大臣、お願いしたいと思います。
○鈴木国務大臣
先ほど別の質疑の間でも申し上げましたけれども、御指摘の今の事案、五十八年がかかっているということ、今、最高検におきまして、最高検察庁におきまして、再審手続がこれほど長期間に及んだことなどについて所要の検証を進めております。
第三者機関でやるべきではないのかという、そういった御指摘でありますけれども、刑事事件の手続、これは、裁判所の訴訟指揮の下で、裁判所を含む訴訟関係者により遂行されるものでありますので、いわゆる第三者機関を設置をして検証を行うということになりますと、まさにこれは司法権の独立ということで、三権分立の話も含めて、問題が生じ得るというところであります。
また、検察は、一連の本件の刑事手続を訴訟関係者の一員として遂行してきたということもありますので、その経緯や事実関係を把握している検察というのがやはり検証の主体としては適切だというふうに考えております。
○もとむら伸子
私は、検察が検証することでは駄目だというふうに申し上げたいと思います。
法律時報の六十一巻八号には、以前の死刑確定判決で再審で無罪となった免田、財田川、松山事件に関して検討報告というものが出されているということが書かれております。当時の検察は、再審請求審で証拠を提出することを絞るということを考えていたということが書かれております。そういう、検察に任せていたら、証拠を開示することを絞るという思考になっていくわけです。いかに犯人にしていくかというところに焦点が当たっていくということにもなりかねません。ですから、やはり検察ではなく第三者が検証するべきだというふうに考えます。
もう一度、大臣、これは刑事局とか検察とか、そういうところに聞いていては、やはりそういうふうにはならないと思うんです、政治主導で是非、第三者の検証を行っていただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。
○鈴木国務大臣
先ほども申し上げましたけれども、やはりこの司法権の独立というところに関わってくる話になります。そういった中で、やはり第三者ということはなかなか、そういった意味からも問題が生じることにもなろうかと思いますし、同時に、先ほど申し上げましたけれども、やはり検察が今回、この一連の刑事手続を訴訟関係者の一員として遂行しておりますので、その経緯、事実関係を把握をしております。そういった意味で、この検証の主体、そういった意味合いもあろうと思います。
同時に、この検証は基本的に客観的な事実関係を前提としたものとなります。そういったことにおいて、検察当局において検証を行うことがその適正さに疑いを生じさせるということにはならないと考えられております。そしてまた、関係者の名誉、プライバシーということを考えても、なかなか第三者機関でということは難しいと考えております。
○もとむら伸子
やはり、検察が検証するのでは駄目だということ、そして、真摯な検証を行って、その上で再審法の改正を行うべきだと。証拠の全面開示ですとか、検察官の抗告権はなくすという方向で是非法改正をしていただきたいということを強く求め、これ以上、人権侵害を起こさせないために法改正を是非お願いしたいということを申し上げ、質問を終わらせていただきます。