【岸田総理大臣への質疑 記事と書き起こし】
「永住者」資格取り消し入管法&技能実習法改定案
4月16日衆議院本会議
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(「しんぶん赤旗」2024年4月17日)
人権侵害 解決できず
本村氏、技能実習改定案を批判 衆院審議入り
現行の技能実習制度の名前を変えて、新たに育成就労制度を創設する入管法・技能実習法の改定案が16日の衆院本会議で審議入りしました。日本共産党の本村伸子議員が質疑に立ち、育成就労制度では深刻な人権侵害を解決できず「技能実習制度の『看板のかけ替え』にすぎない」と指摘し、「外国人を人間として受け入れ、ともに生きる制度に変えるべきだ」と求めました。
本村氏は、外国人技能実習生の失踪が2022年で9006人に上るとして「実態や原因を把握しているのか」とただしました。岸田文雄首相は「外国人技能実習機構が厳格に審査を実施している。(改定で)適正な外国人材を図る」とし、政府として把握しているかは答えませんでした。
改定案ではこれまで原則できなかった職場を移る「転籍」を認めるとしていますが、日本語・技能要件などで厳しく制限しています。本村氏は転籍先が見つかるまでの生活保障を求めた上で「転籍の自由を事実上認めないものではないか」と指摘。岸田首相は「外国人の希望に応じた適切な対応に努める」と述べるだけでした。
改定案は「永住許可制度の適正化」として、税金などを滞納した場合に「永住者」資格を取り消す制度が新設されます。本村氏は「あまりに横暴だ。永住者や永住許可を申請するすべての外国人の地位を著しく不安定にする」と批判。「外国人労働者と家族に終始厳しい管理・監視を続け、日本で培った生活基盤を失わせることは人道に反する」と追及しました。岸田首相は「(永住許可制度の)取り消しの要否は個別ごとに悪質性を判断する。永住者の定着性にも十分配慮する」と述べるにとどめました。
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人権侵害 解決できず 技能実習改定案を批判 2024.4.16
議事録
【書き起こし】
〇もとむら伸子
私は、日本共産党を代表し、入管法、技能実習法の改定案に対し質問をいたします。
まず、現行法の外国人技能実習制度についてです。
政府は、技能実習制度の目的を技能移転による国際貢献と説明してきましたが、実際には、大企業が下請単価や取引価格の引下げ、抑制をする下で、外国人を非熟練、低賃金の労働力として使い、強制労働や性的搾取など深刻な人権侵害の温床となってきました。国連自由権規約委員会などからも人権侵害を指摘されてきた技能実習制度の現状を、総理はどう認識しているのですか。
外国人技能実習生の失踪が相次いでいます。建設、農業の分野を中心に、失踪者数は2022年で9006人に上っています。なぜ失踪者が相次いでいるのか、失踪した技能実習生はどこで何をしているのか、命を落としていないのか、政府は、失踪の実態や原因を調査し、把握しているのですか。
能登半島地震では、技能実習生を含む多くの外国人労働者が被災をいたしました。地域や勤め先で被災者として支援を受けている方々もいますが、政府は、一人一人の実態をつかまず、成り行き任せにしてきました。受入れ企業や監理団体任せにする技能実習制度の問題点が、ここに集中的に表れているのではありませんか。
日本共産党は、人権侵害をつくり出す技能実習制度を廃止し、外国人を労働者として受け入れることを主張してきました。本法案は、技能実習制度から育成就労制度へと名前を変えていますが、問題は、新しい制度が深刻な人権侵害を解決するものになっているかどうかです。具体的にお聞きをいたします。
第一に、転籍の自由の保障についてです。
現行の技能実習制度は、原則転籍の自由がなく、やむを得ない事情がある場合とし、労働基準法違反や暴力などを受けたときに限っていました。育成就労制度では、やむを得ない事情がある場合の要件は広げたのですか。
外国人技能実習機構が新しい実習先を見つける支援は原則3か月で終了、見つからない場合は在留期間が残っていても帰国という扱いをしていました。育成就労制度では、見つかるまで生活保障をするのですか。そうでなければ、転籍は絵に描いた餅になるのではありませんか。
新たに本人の意向による転籍を規定していますが、当分の間、分野によっては一年から二年は転籍を認めず、しかも、日本語、技能要件などの制限を設けています。転籍の自由を事実上認めないものではありませんか。
政府は、自由に転籍を認めたら、地方から賃金の高い都市部へと移動してしまうと言いますが、中小・小規模事業者を本気で応援し、全国一律、最低賃金制度を1500円に実現することこそ必要です。それは、大企業の内部留保に適切に課税をして財源を生み出せば、できることです。
第二に、農業と漁業の分野に派遣労働の仕組みを導入することは重大です。仕事のあるところに派遣するやり方は、中間搾取や短期間での使い捨てなど、労働条件の悪化を生み出すのではありませんか。人手不足の地方や農家への定着にとっても、マイナスになるのではありませんか。
第三に、育成就労外国人を支援する監理支援機関について、受入れ企業の役員の兼務を排除しておりません。これでどうして独立性、中立性を担保できるのですか。
技能実習の監理団体が、最低賃金以上支払わないよう圧力をかけるなどの事態が問題になってきました。手数料収入に依存し、受入れ企業から独立できない監理支援機関では、外国人労働者を守れません。
暴力、性暴力、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメントなどをなくすために、分厚い相談機関と救済機関を求めます。
第四に、現行の技能実習生は、多額の借金を背負って来日しています。多額の借金を背負う問題について、育成就労では、原則として、新たに二間取決めを作成した国からのみ受け入れ、手数料負担の軽減を図るとしていますが、これまでの取組の延長線上では実効性はありません。どうするつもりですか。
ハローワークなどの政府機関が関与することが必要です。出身国で示された労働条件と違うなど違反行為があった場合は摘発し、不当な手数料を根絶して、悪質なブローカーを排除するべきです。
結局、育成就労制度は、転籍の自由を保障する制度とは言い難く、監理団体と同じような監理支援機関に関与させ、多額の借金問題の解決の見通しもない、技能実習制度の看板のかけ替えではありませんか。
第五に、重大なことは、永住許可制度の適正化と称して、税金や社会保険料などが未払いの場合に永住者資格を取り消すことができる制度を新設することです。
不安、失望、混乱の声が上がっています。病気や失業など収入の減少等により税金や社会保険料を滞納することは、誰にでも起こり得ることです。それだけで永住許可を取り消すことは、余りにも横暴です。永住者だけではなく、永住許可を申請しようとする全ての外国人の地位を著しく不安定にするものではありませんか。
永住しようとする外国人労働者と家族に対して終始厳しい管理、監視を続け、やむを得ない事情を考慮せず、永住許可を取り消し、日本で培った十分な生活基盤を失わせることは人道に反します。
最後に、若い外国人が技能実習や育成就労で日本に来て、大切な人と出会い、結婚することは当然あります。子供も生まれるかもしれません。子供の在留資格を手厚く保障するべきです。
外国人を人間として受け入れる制度、共に生きる制度に変えていくことを強く求め、質問を終わります。
〇岸田文雄総理大臣
本村伸子議員の御質問にお答えいたします。
技能実習制度の現状についてお尋ねがありました。
現行の技能実習制度について、国際機関等から指摘を受けていることは承知をしており、労働者としての権利保護をより適切に図るための制度の見直し、これは重要であると認識をしております。
現在でも、技能実習生が失踪した場合には、速やかに受入れ機関に対して実地検査を実施するなど、失踪の実態や原因の調査に努めているほか、監理団体を許可制、技能実習計画を認可制とした上で、外国人技能実習機構が厳格に審査や検査を実施しているところですが、今回、より適正な外国人材の受入れを図るため、育成就労制度を創設することとしたものであります。
育成就労制度における転籍についてお尋ねがありました。
育成就労制度において転籍が認められるやむを得ない事情がある場合については、例えば、契約時の労働条件の内容と実態との間で一定の相違等がある場合をその対象とするなど、範囲を拡大、明確化することを予定しております。
また、育成就労外国人が転籍を希望する旨の申出をした場合には、監理支援機関や外国人育成就労機構において必要な援助を行い、外国人の希望に応じた適切な対応に努めることとしており、いずれにしても、御指摘のように、転籍の自由を事実上認めないというものではありません。
なお、中小企業の賃上げに向けては、賃上げ促進税制の拡充などの施策を進めており、最低賃金についても2030年代半ばまでに1500円となることを目指すとした目標について、より早く達成できるよう全力を挙げてまいります。また、内部留保への課税については、二重課税に当たるとの指摘があることから、慎重な検討が必要であると考えております。
労働者派遣による育成就労、地方や農家への定着についてお尋ねがありました。
育成就労制度では、季節性のある分野における通年での受入れを可能とするため、農業、漁業分野に限り、労働者派遣を活用した受入れを認めることを予定しています。
労働者派遣で受け入れる場合には、受入先を労働者派遣事業の許可を受けた派遣元事業主及びその派遣先に限定をし、三年間の育成就労計画をあらかじめ作成し、無制限に就労先の変更をすることは認めないこととしております。
こうした仕組みにより、育成就労外国人の労働条件や適正な人材育成を確保し、農家等における外国人材の定着を図ってまいります。
監理支援機関の独立性、中立性等についてお尋ねがありました。
御指摘の兼職の全面的な禁止については、現行技能実習制度における監理団体の実態等を踏まえると慎重な検討が必要であると考えております。
他方で、本法案においては、外部監査人の設置を許可要件とするほか、受入れ機関と密接な関係を有する役職員が一定の監理支援等の業務に関与することを禁止することとしており、監理支援機関の受入れ機関からの独立性、中立性を十分に担保できるようなものであると考えております。
また、本法案においては、監理支援機関について、受入れ機関数に応じた職員の配置や相談対応体制の確保を許可要件とするほか、外国人育成就労機構の支援、保護機能を強化することとしており、外国人の相談援助の強化にも取り組むこととしております。
育成就労制度における送り出しの在り方についてお尋ねがありました。
育成就労制度においては、外国人が送り出し機関に支払う手数料等の負担を軽減するための方策を講ずるとともに、原則として、送り出し国政府との間で二国間取決めを作成した国の送り出し機関からのみ受け入れることにより、悪質な送り出し機関の排除の実効性を技能実習制度よりも高めることとしております。
なお、外国人の送り出しにハローワーク等の政府機関を関与させることについては、必ずしも悪質なブローカーが排除されるわけでもなく、また、政府の財政的支援が膨大となることから、慎重な検討が必要であると考えております。
育成就労制度の見直しの内容についてお尋ねがありました。
育成就労制度においては、一定の要件の下で本人の意向による転籍を認めるほか、監理団体の要件を厳格化することや、外国人が送り出し機関に支払う手数料等の負担軽減を図ることとしております。
このように、現行の技能実習制度を抜本的に見直して適正化を図ることとしており、看板のかけ替えという御指摘は当たらないと考えております。
永住許可制度の適正化についてお尋ねがありました。
永住許可制度の適正化は、永住許可後に要件を満たさなくなった一部の悪質な者について、その在留資格を取り消すことができるとするものですが、取消しの要否については、個別の事案ごとに悪質性を判断することになります。
いずれにしても、永住者の我が国への定着性にも十分配慮して、適切に制度を運用してまいります。
育成就労外国人等の子どもの在留資格についてお尋ねがありました。
現行の運用においても、技能実習生同士が結婚し、我が国で子が出生した場合については、人道的観点から、特定活動の在留資格を例外的に認めるなど、個々の事案に応じて、可能な限り柔軟な対応をしているものと承知をしております。
政府としては、引き続き、個々の外国人の方が置かれた状況等を踏まえつつ、人道的観点から適切な対応をしてまいります。