衆議院本会議で、「共同親権」含む民法改定案にたいする質問を行いました。
書き起こしを掲載いたします。どうぞよろしくお願いいたします。
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議事録
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◆もとむら伸子
私は、日本共産党を代表し、民法改定案に対し質問をいたします。
本法案は、親子関係と家族の在り方に関する戦後民法の根本に関わるものです。慎重かつ丁寧な議論によって国民的合意をつくることが求められています。
「親権」についてお伺いをいたします。
明治民法では、家制度の下、父による「単独親権」でした。戦後、民法は改正され、両性の本質的平等に基づき、婚姻中は父母の「共同親権」とされました。憲法の下では、「親権」とは、親の子に対する支配権ではなく、親の子に対する養育の義務、責任です。
本法案は、婚姻関係にかかわらず、父母は、子の心身の健全な発達を図り、子の人格を尊重し、互いに協力する責務を明記しました。父母の「親権」に服するという文言を削除し、子の利益のために行使しなければならないとしたことは、「親権」を、子どもの権利を中心に据え、捉え直す動きに沿ったものと言えます。
そうであるならば、なぜ「親権」という定義、用語を変えなかったのか。どう検討したのか、答弁を求めます。
一人一人の子どもの最善の利益を実現するためには、子どもの意見表明権の保障が不可欠です。両親の離婚等に伴う環境変化は、子どもの人生にとっても一大事と言える場面であり、子どもが意見を聞かれる権利を保障することは、子どもの最善の利益のために必須の手続です。子どもの意見表明権の保障を明記するべきです。
離婚後「共同親権」についてお伺いをいたします。
離婚した父母双方が対等、平等な関係で合意し、子の養育に関して共同して責任を果たし、それが子の利益にかなう多くの場合があります。一方で、夫婦間の信頼が失われ破綻し、離婚に至る場合、「共同親権」がかえって子どもの安心、安全、命を損なう現実的な懸念をどう検討されたのでしょうか。
「共同親権」になった場合、子どもに関わる重要な決定は、元配偶者の同意が必要となります。合意が得られなければ、そのたびに裁判所の判断を求めることになり、新たな紛争の多発が懸念をされるのではありませんか。
元配偶者からの支配が続くのではないかという不安の声に、どう応えるのですか。
DVや虐待がある場合には、裁判所が「単独親権」を決定するとしていますが、どのように認定するのでしょうか。法務省は、DV法より広い事情が考慮されると言いますが、具体的にはどのような事情でしょうか。DV、虐待は密室で行われ、立証の難しさがあるのではありませんか。
「共同親権」の場合、「急迫の事情」があれば単独行使ができるとしていますが、どのような場合でしょうか。例えば、離婚した元配偶者と面会したときに暴力を振るわれ、しばらくたってから子どもと転居をする場合は、「急迫」と解釈されるのか、元配偶者の同意が必要になるのでしょうか。
医療現場からは、不仲で同席できない両親に説明し同意を得ることは、臨床現場に二重の負担をかけ、適切な医療の妨げになると懸念が出されています。
これらの深刻な問題点は、法制審議会家族法制部会で指摘をされていました。それにもかかわらず、部会の意見の一致を得ないまま法案を提出いたしました。拙速のそしりを免れません。国会審議の前提として、八千件を超えるパブリックコメントを全て明らかにすることを求めます。
最後に、重要なのは、体制と総合的な施策の問題です。
家庭裁判所が大きな役割を果たさなければなりません。家庭裁判所の裁判官、調査官など、大幅増員を求めます。また、子どもの権利を保障するための子どもパートナー弁護士制度を公費負担で進めることや、経済的困難を抱えるシングルマザーなどの弁護士費用は公費で持つべきです。DV、虐待の防止、被害者支援の拡充、一人親支援、養育費立替え払い制度の創設など、総合的な施策をどう具体化するのですか。
以上、答弁を求め、質問を終わらせていただきます。
◆小泉龍司法務大臣
本村伸子議員にお答えを申し上げます。
まず、親権の性質についてお尋ねがありました。
親権は、子に対する支配権ではなく、また、権利のみでなく義務としての性質を有しており、子の利益のために行使しなければならないものと理解されております。
次に、親権の定義や用語の見直しについてお尋ねがありました。
法制審議会の議論では、親権を親責任という用語に見直してはどうかという意見もございました。しかし、親責任という用語は、その主体でない父母が子に対する責任を負わなくなるとの誤解を招きかねないため、その見直しは見送られたという経緯がございます。
次に、子の意見表明権についてお尋ねがありました。
家庭裁判所は、親権等に関する事件では、子の意思を把握するように努め、子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮しなければならないこととされております。加えまして、本改正案では、父母が子の人格を尊重すべきことを明らかにしております。このように、子の意見表明権は適切に保障されているものと考えております。
次に、離婚後の共同親権への懸念についてお尋ねがありました。
法制審議会の議論では、父母双方を親権者と定めることにより子の利益を害する事案もあるとの懸念が示されました。そこで、本改正案では、親権の共同行使が困難な場合や子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合のように、父母双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、裁判所が必ず単独親権としなければならないこととしております。
次に、紛争が多発する懸念についてお尋ねがありました。
本改正案では、監護又は教育に関する日常の行為をするときや、子の利益のため急迫の事情があるときは、親権を単独で行使することができることとしており、不必要な紛争が多発するとは考えておりません。
次に、本改正案に対する不安の声についてお尋ねがありました。
本改正案は、DVや虐待のおそれがある場合のほか、親権の共同行使が困難な場合にも、裁判所は必ず単独親権としなければならないこととしており、安全、安心を脅かすなど、御指摘のような内容とはなっておりません。本改正案が成立した場合には、その趣旨が正しく理解されるよう、法務省のホームページ等を利用して、適切かつ十分な周知、広報に努めてまいります。
次に、裁判所が親権者を定める際に考慮されるDVや虐待についてお尋ねがありました。
本改正案では、裁判所が必ず単独親権としなければならない場合の例として、DVや虐待のある場合を挙げております。具体的には、父母の一方が暴力等を受けるおそれや、子の心身に害悪を及ぼすおそれの有無を基準として判断することとなります。その判断の際には、当事者の主張のみに基づくものではなく、御指摘のようなDVや虐待の特質等も踏まえつつ、DV等のおそれを基礎づける事実とそれを否定する事実とが総合的に考慮されると考えております。
次に、子の利益のため急迫の事情があるときの具体例についてお尋ねがありました。
お尋ねについては、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時に親権を行使することができず、その結果として子の利益を害するおそれがあるような場合をいうと考えております。御指摘のように、離婚後に元配偶者から暴力を受け、その後、子供を連れて転居するケースについても、これに当たる場合があると考えております。
次に、臨床医療の現場への影響についてお尋ねがありました。
本改正案は、監護に関する日常の行為をするときや、子の利益のため急迫の事情があるときは親権を単独で行使することができることとしております。そのため、子に関する診療契約の締結について、必ず父母が共同して親権を行使しなければならないものではなく、適切な医療の妨げになるとの懸念は当たらないと考えております。
次に、パブリックコメントの公表についてお尋ねがありました。
中間試案に対するパブリックコメントでは、個人、団体から八千件を超える意見が寄せられ、その概要は法務省のホームページで公表しております。その意見にはプライバシーに関わる事項が多数含まれているため、意見そのものを公表することは適当ではないと考えております。
最後に、家庭裁判所の体制についてお尋ねがありました。
お尋ねについては、裁判所を取り巻く様々な状況を踏まえ、最高裁判所において適切に判断されるべきものであり、本改正案が成立した場合には、裁判所において適切な審理が行われるよう対応されるものと承知しております。
子どもの権利保護など、総合的な施策についてお尋ねがありました。
改正法を円滑に施行し、子の利益を確保するためには、一人親家庭支援や裁判手続の利便性向上といった支援策や、体制整備を図るとともに、DV及び児童虐待等を防止して安全、安心を確保することが重要であると考えております。法務省としては、本改正案が成立した場合には、その趣旨が正しく理解されるよう、適切かつ十分な周知、広報に努めるとともに、こうした環境整備について、関係省庁等と連携して取り組んでまいります。
お尋ねの弁護士費用については、経済的な理由で泣き寝入りすることがないよう、民事法律扶助を適切に御利用いただけるよう努めてまいりたいと考えております。
お尋ねの養育費立替え払い制度については、その創設を期待するお声があることは承知しておりますが、本改正案では、養育費の取決めの実効性を向上する改正案となっており、まずはその施行状況を注視したいと考えております。
以上